第七話:魔王、運営(カミ)に挑む
魔王軍のコンサルタントとして、蓮が玉座の間に足を踏み入れたとき。 そこにいたのは、威厳あふれる支配者ではなく、巨大な魔導モニターの前で震える手でボタンを連打する「廃人」だった。
「……ベルさん。あれ、本当に魔王ですか?」 「はい。三日前、転生者が落としていった『スマートフォン』のソシャゲを拾ってから、あの状態で……」
漆黒の玉座は今やゲーミングチェアへと改造され、魔王の背中からは「爆死した者の怨念」が漂っていた。
「出ない……ッ! 確率3%と書いてあるのに、なぜ予の『SSR聖女(水着)』が出ぬのだ! 運営を呼べ! 物理的に滅ぼしてやる!」 「魔王様、落ち着いてください! 既に魔界の金庫は空です!」
ベルが泣き叫ぶ中、魔王の指が禁断の『10連追加』に伸びる。蓮は音もなく背後に歩み寄り、冷徹な一言を放った。
「――判定、『天井(底)』ですね」
「なっ……!? 貴様、誰だ! 予の運命を否定するか!」 「魔王軍法務顧問の九条です。魔王様。そのゲームの確率計算は、数万回の試行を前提としています。魔王軍の予備費程度では、誤差の範囲内で飲み込まれるだけですよ」
蓮のスキル『翻訳不全』が、魔王の脳内に「今月の国家予算の減少グラフ」と「兵士たちの不買運動」の映像を強制投影した。
「ぐ、は……っ!? なんだ、この生々しい赤字は……!」 「あなたが水着の聖女を手に入れる代わりに、魔王城は差し押さえられ、あなたは路上生活者として転生者たちに笑われることになります。……それが、覇道の果てですか?」
魔王はゆっくりと振り返った。血走った瞳には、かつての覇王の輝きではなく、ギャンブル依存症の悲哀が宿っていた。
「九条と言ったか。……どうすればいい。予の剣では、この『確率』という名のバリアを斬れぬのだ」
「まずはアカウントの削除……いえ、私が『家計管理コンサル』として、ガチャ計画を策定します。一日の課金制限と、放置されている政務への復帰を条件としますが」
蓮はタブレットを叩き、素早く魔導通信のログを解析し始めた。
「九条さん……あなた、ソシャゲの闇に詳しすぎませんか?」 呆気にとられるベルに、蓮は死んだ魚のような目で答える。
「前世で、ソーシャルゲームのカスタマーサポート……通称『地獄の窓口』にいた時期がありまして。運営への殺害予告から、離婚危機の相談まで捌いていたんです。魔王のガチャ爆死くらい、当時のユーザーに比べれば可愛いものですよ」
こうして、異世界の命運を握る「魔界の財政再建」が、一人の元CS担当によって開始された。
第7話:あとがき
はい、天界・発送課の女神です! 魔王様、完全に「ガチャの沼」に引きずり込まれちゃいましたね。
実はあの端末、私が退屈しのぎに地球から適当に流した「運営の集金装置」なんですけど……。まさか世界最強の覇王が、たった3%の壁を前に、魔界の国家予算を溶かしきろうとする姿を見ることになるとは思いませんでした。
でも、九条くんの「爆死したユーザー」への対応、完璧すぎます! かつて地獄のカスタマーサポートで、血を吐くようなクレームを捌いてきた彼にとって、「確率の壁にキレる魔王」なんて、優良顧客も同然。魔王様も今や、九条くんのことを「軍師」というか「家計の守護神」として崇め始めていますよ。
さて次回、そんな平和(?)な魔王城に、ついに「本物の勇者」を自称する、最強の転生者が殴り込んできます。 ゲームの攻略法も家計簿も通じない、純粋な「暴力」で世界をリセットしようとする彼に対し……。
九条くん、今度はどんな「事務的な絶望」をデリバリーするのでしょうか? それでは、また次回!




