第六話:二枚の名刺と過労の予感
「……共同管理、ですか?」
居酒屋『チート』の片隅で、ベルフェリエが呆然と呟いた。 隣に座る蓮は、手帳に複雑な法規上のチャートを書き込みながら、冷徹に言い放つ。
「ええ。現在、入国管理局は転生者の『在庫過多』でパンク寸前。対して魔王軍は、城を不法占拠され管理能力を喪失している。……なら、答えは一つです」
蓮は眼鏡を押し上げ、獲物を定めるような目でベルを見た。 「魔王軍を『当局の管轄下』に置く。私がアドバイザーとして魔王城に入り、城を転生者の『更生・強制送還待機施設』として再定義します。これなら管理局からは外交機密費が、魔王軍からは高額なコンサル料が発生し、かつ両者の問題が解決する」
「九条さん……あなた、悪魔より悪魔らしい契約書を書きますね。……抱いて(契約して)ください!」
こうして、九条蓮の「異世界二重生活」という名の、合法的な魔界侵食が始まった。
数日後。蓮はベルに案内され、初めて魔王城の門を潜った。 だが、そこに広がっていたのは、かつての威厳など微塵もない「スラム街」だった。
「……想像以上ですね。これは」
中庭では転生者たちが勝手にテントを張り、バーベキューに興じている。 廊下には、かつて王族を迎え入れたであろう噴水で、勇者が「聖なるふんどし」を洗濯する姿。 あちこちに『立ち入り禁止。レベル100以上限定』という、転生者が勝手に書いた落書きのような看板が立てられていた。
「そうなんです! 彼ら、ここを『無料の拠点』だと思ってるんです!」
ベルが屈辱に震える。蓮は静かに、管理局から「押収品」として持参したメガホン型の魔導具を起動した。
「不法占拠者、及びゴミのポイ捨てに従事している方々に告げます」
「――『翻訳不全』。全域同期」
蓮の言葉が、城全体に「冷酷な現実」として浸透していく。 テントで笑っていた者、噴水でふんどしを洗っていた者たちの脳内に、蓮のスキルが「強制的な納付書」を映し出した。
勇者たちが見たのは、空飛ぶ聖剣の幻影ではない。 【不法占拠期間・合計一万二千分】、【魔王城器物損壊賠償金】、【前世からの住民税未納分・異世界通貨換算(利息18%)】……。 画面を埋め尽くす「未納」の赤文字と、逃げれば逃げるほど膨らむ「追徴課税」のシミュレーション・グラフ。
「な、なんだこれ……!? 俺の『勇者特典』はどうなったんだよ!」 「追徴課税……!? ちょ、待て、これじゃ一生タダ働きじゃねえか!!」
魔王の呪いには耐えられても、「前世から追いかけてくる税務署の影」には、元現代人(転生者)は勝てない。 勇者たちは一斉に真っ青な顔になり、洗濯物も放り出して城門へと殺到した。
「す、すごいです九条さん! 掃除が一分で終わった!」
歓喜するベルを尻目に、蓮はさっさと玉座の間へと歩みを進めた。 「感心するのは後です。次は、玉座の間を不法占拠している『伝説の勇者』とやらを、民事訴訟と強制退去執行で、再起不能に叩き落としに行きましょう」
第6話:あとがき
はい、天界・発送課の女神です! 九条くん、まさかの「ダブルワーク(二重生活)」開始ですね。
本来なら副業禁止のはずのお役所ですが、「魔界の管理権」という巨大な利権を前に、局長も鼻息荒く承認のハンコを叩き押しちゃったみたいですよ。九条くん、公務員の身分を盾に魔王軍を私物化するなんて、本当におそろしい子……!
そして、ベルちゃん。 九条くんの放った「追徴課税(税金の暴力)」に心を撃ち抜かれちゃいましたね。 これまで一人で「勇者が噴水で洗ったふんどしの後片付け」をしてきた彼女にとって、書類一枚で侵入者を一掃する九条くんは、もはや魔王様より頼もしい「救世主」に見えていることでしょう。
さて、次回。 寝不足で目の下にクマを作った九条くんの前に、ついに「魔王様」本人が、ある個人的な悩みを相談しにやってきます。
最強の魔王が、玉座で頭を抱えながら打ち明けた、あまりにも現代的で世俗的な「アレ」とは……? 魔界の王すらも「事務」と「管理」の力に屈する瞬間を、ぜひお見逃しなく!
それでは、また次回!




