第三十九話:地獄の翌朝、そして「証拠」の隠滅
小鳥のさえずりと、清々しい魔界の朝日。 だが、温泉宿の一室にいる九条蓮の表情は、死地に向かう兵士よりも険しかった。
「……おはようございます、九条様。お目覚めはいかがですか? 『特製・二日酔い解消ポーション』を用意しました」
如月が、いつになく艶やかな微笑みを浮かべて盆を運んでくる。 蓮はズキズキと痛む頭を押さえながら、おぼろげな記憶の断片を繋ぎ合わせようとした。
「……如月さん。昨夜、私は……何か、不適切な言動を?」
「いえ、不適切などとんでもない。むしろ……非常に『人間味あふれる』ご要望を多数承りました。……例えば、『もっと隣にいてほしい』とか、『一人にしないでくれ』とか……」
「…………。………………嘘だ。私は、そんな事務的でない発言をするはずが——」
「ヒッヒッヒ! 九条様、残念ながら『証拠』はバッチリ残ってますよぉ!」
影から現れたカゲミツが、魔導録画機を再生した。 そこには、赤ら顔で如月の肩にもたれかかり、「如月さん……あなたのタイピングの音、実は……心地いいんです……」と、とんでもなくニチャついた笑顔で囁く自分の姿が映し出されていた。
「ぎゃああああ! 蓮、可愛いぞ蓮ーっ!」 隣の部屋から、美少女(父)が動画のコピーを持って乱入してくる。 「これ、九条家の家宝にするからな! 母さんにも送信済みだ!」
「……っ! 結、シロ! すぐにその記録媒体を押収しなさい! これは管理局の機密保持違反です!」
「ヒヒーン!(お兄ちゃん、諦めて! 私の角にバックアップ取っちゃったもん!)」 「レンさま……、あのときのレンさま、とってもいい匂いしたです。また、やってほしいです……!」
蓮は、音を立ててバインダーを床に落とし、膝をついた。 「清算」すべき在庫は、自分自身の醜態だったのだ。
「……如月、さん。……その、動画の全データを消去する条件を提示してください。……予算、あるいは私の有給休暇、何でも差し出します」
「……。…………条件、ですか」
如月は蓮の耳元に顔を近づけ、誰にも聞こえない声で囁いた。
「……次の休日、事務服ではなく『私服』で。……二人きりの『現地視察』に付き合っていただきます。……それが、今回の和解案です」
九条蓮の眼鏡が、屈辱と敗北、そしてわずかな動揺で曇った。 最強の事務員は、ついに自らの失態によって、一人の女性との「契約」を結ばされることになったのである。
後書き
はい、発送課の女神です!
九条くん、完全敗北……! あんなに甘々なセリフ、しかも「タイピングの音が心地いい」なんて、 事務員にしか言えない最高の愛の告白(?)じゃないですか! お父様もお母様も、ノリノリで動画をシェアしてるあたり、九条家のチームワークは恐ろしいですね。
如月さんの「私服デート」の要求、これはもう和解案という名の「一本勝ち」! 果たして、九条くんはどんな私服で現れるんでしょうか? やっぱり、私服でもネクタイ締めてそうですけど(笑)。
さて、次回! 「九条蓮、初めての私服デート! 〜如月の私服が破壊力抜群すぎて、事務員の計算能力がゼロになる〜」
ついに二人の仲が急接近!? でも、もちろん結ちゃんやシロちゃんが黙って見送るはずもありません。 お楽しみに!




