第三十八話:深夜の露天風呂、鉄面の決壊
「……ふぅ。……少し、冷やしすぎましたか」
誰もいないはずの深夜の露天風呂。蓮は一人、岩に背を預けていた。 普段の隙がないスーツ姿ではなく、はだけた浴衣姿。その顔は、父・厳吾から譲り受けた「九条家秘伝の酒」によって、林檎のように赤く染まっている。
「……九条様? まだ、起きていらしたのですか」
足音と共に現れたのは、如月だった。彼女もまた、湯上がりの火照りを冷ましに来たのだろう。 だが、蓮の様子がおかしいことにすぐ気づいた。
「……如月、さん。……ちょうど、良かった。この……『温泉の満足度調査票』ですが……。……字が、三つに見えます。……修正液を、持ってきてください……」
「……酔っておられるのですね。しかも、相当に」 如月は苦笑し、蓮の隣に腰を下ろした。
「……父も、母も……兄も、結も。……みんな、勝手すぎます。……管理局の、在庫リストにも……載っていない……イレギュラー、ばかりで……」
蓮は、ふらりと如月の肩に頭を預けた。 いつもなら絶対にありえない行動に、如月の心拍数が事務的許容範囲を突破する。
「……私、は。……この世界を、ただ『整理』したかっただけなんです。……父が、守ろうとした秩序を……。母が、支えようとした平穏を……。……でも、……一人では、無理、でした……」
蓮の、掠れた本音。 「……如月さん。……あなたが、……隣にいてくれて、……助かりました。……これ、は……、……事務的な、お礼、では……なく……」
そのまま、蓮はスースーと寝息を立て始めた。 如月の肩に顔を埋めたまま、完全に無防備な姿で。
「…………。………………ずるいです、九条様」
如月は、月を見上げて小さく溜息をついた。 普段はあんなに厳しい上司が、酒の勢いで見せた「子供のような弱音」。 その時、岩陰からシロの耳や結のツノ、さらには美少女(父)の影が動いたのを、如月は見逃さなかった。
「……皆さんも、見ているのでしょう? ……今夜だけは、九条様を『予約済み(お取り置き)』とさせていただきます」
如月はそう宣言すると、眠る蓮をより深く抱き寄せた。 九条蓮、人生最大の「管理ミス」。それは、彼を囲む乙女たちの絆を、より強固に(そして過激に)結びつける結果となった。
後書き
はい、発送課の女神です……!
きゃーーーーー!! 九条くん、何ですかその「ギャップ萌え」の暴力は!! 「事務的なお礼ではなく……」の先! 先が気になりすぎて、私、神界から双眼鏡で覗き込んじゃいましたよ! 如月さんの「予約済み」宣言も、めちゃくちゃカッコ良かったです……。
でも、岩陰に全員隠れてたんですね(笑)。 お父様(美少女)なんて、「蓮のやつ、あんな可愛いこと言いおって……!」って、 親バカ全開でビデオ回してましたよ。 明日、蓮くんが起きた時の「記憶の清算」が恐ろしいことになりそうです……。
さて、次回! 「地獄の翌朝! 〜九条蓮、昨夜の失態を動画で突きつけられ、全財産をはたいて『忘却魔法』を買いに走る〜」
酔いから醒めた事務員を待っていたのは、人生最大の黒歴史!? お楽しみに!




