第二十七話:路地裏の「不良債権」と、犬の獣人
ブラック派遣会社『ワールド・スタッフ』の解体により、多くの書類が管理局に押収された。蓮はその膨大な資料を精査していたが、ある「備品リスト」の前でペンを止めた。
「……如月。この『生体備品:イヌ型』という項目、何ですか?」
「……あ。それは、派遣先が決まらない、あるいは能力が低いと見なされた獣人たちが、労働力ではなく『愛玩用』として二束三文で売却された記録です。……すでに多くが、闇のオークションへと流れていますね」
蓮の眼鏡が、静かな怒りで白く光った。 「……カゲミツ。直近の売却先を特定してください。定時を過ぎても構いません。これは特例の『緊急監査』です」
「合点承知! もう特定済みですよ九条様! 裏通りの闘技場……そこでは負けた獣人が、金持ちの『椅子』代わりにされているらしいですよ」
向かったのは、湿った空気が漂う地下闘技場。 そこには、ボロボロの布を纏い、首輪に繋がれた犬の獣人娘・シロが、冷たい石畳の上で震えていた。
「おい、こいつはもう戦えねえ。……捨てちまえ、こんな『不良在庫』」
男がシロを蹴り飛ばそうとした瞬間、その足が空中で固定された。如月の影のような一撃が、男の膝を粉砕していた。
「……九条様。この者たちを『備品』扱いした罪、万死に値するかと」
蓮はシロの前に膝をつき、震える彼女の耳の横で、事務的に一通の書類を開いた。
「……シロさん。私は異世界管理局の九条蓮です。……あなたの『所有権』について、重大な法的不備が見つかりました」
シロが怯えた瞳を上げると、蓮は彼女の首輪に手をかけ、無理やり引きちぎった。
「あなたの前世……そして今の生。あなたは誰かの『備品』ではありません。……現在、管理局では『災害救助犬』ならぬ『災害救助・獣人ユニット』の職員を募集しています。……嗅覚に優れたあなたには、その適性がある。……私と一緒に、管理局へ来ますか? 待遇は公務員並み、もちろん、三食昼寝付きです」
「……あ、あの……わたし、失敗ばかりで……なにも、できない、です……」
「できないのではありません。誰もあなたを『教育』しなかっただけだ。……皇くんや斉藤さんのように、あなたも『更生(自立)』してもらいます」
シロの細い手が、蓮のスーツの袖をギュッと掴んだ。 それは、在庫として捨てられかけた少女が、初めて掴んだ「権利」だった。
後書き
はい、発送課の女神です……。
うぅ、シロちゃん……可哀想すぎて、神様の私も涙が出ちゃいますよ。 「備品」だなんて、なんてひどいことをするんでしょう。 でも、九条くん。 助け方がやっぱり「法的・事務的」なのが彼らしいですね! 「所有権の不備」で首輪を外すなんて、なんてスマートな理屈!
如月さんの怒りもすごかったですけど、 一番驚いたのは、シロちゃんが蓮くんの袖を掴んだ時の、如月さんとベルちゃんの「あ、ライバル増えた……?」っていう一瞬の表情の凍りつきでした。 シロちゃん、天然の「あざと可愛い」属性がありそうですからね!
さて、次回。 「新人職員・シロの奮闘! 〜管理局の廊下で迷子になりつつ、犯人を鼻で追い詰める〜」
不当な扱いを受けていた獣人たちを、九条くんが次々と「管理局の精鋭」へと変えていく、 怒涛のスカウト・更生編が続きます!
お楽しみに!




