第22話:定時後の茶菓子と、それぞれの「更生」
悪徳運営会社『ドリーム・トランスファー』の解体から数日。 管理局の一角にある「更生支援室」では、かつての傲慢な社長・皇 蔵人の姿があった。
「……九条主任、この……『異世界マナー検定・初級』の解答、これで合っていますか?」
高級スーツを脱ぎ捨て、地味な事務服に着替えた皇が、震える手で答案用紙を差し出す。 蓮はそれを一瞥し、赤ペンで容赦なくバツをつけた。
「皇くん。お客様への挨拶に『爆死しろ』という選択肢はありません。前世のガチャの恨みを、仕事に持ち込まないように。……もう一度最初からやり直しです」
「は、はい! すみませんでしたぁぁ!」
部屋の隅でそれを見ていたカゲミツが、ケラケラと笑いながら影から首を出す。
「あーあ、皇社長。あんなに威張ってたのに、今は九条様のスパルタ教育で、すっかり『礼儀正しい事務員(見習い)』に更生されちゃって。あ、ちなみにさっき広場で、元・略奪騎士の転生者が『九条さんの指導のおかげで、奪うより稼ぐ方が快感になった』って言いながら、汗水垂らして畑を耕してましたよ。更生プログラム、順調すぎません?」
「……更生とは、奪われた誇りではなく、失っていた『責任感』を取り戻させる作業ですから」
蓮がそう言って眼鏡を直すと、如月が湯気の立つ茶を、ベルフェリエが魔界特産のモンブランを運んできた。
「九条様、本日の『元・悪徳転生者更生メニュー』は全て終了です。そろそろ、ご自身の脳のリソースを回復させてください」 「そうですよ! 皇さんも、一生懸命お茶汲みの練習をしてるみたいですし、少しは休んでくださいね」
「……あの、九条主任。自分……これからは、ズルしないで、一歩ずつ頑張ります。……その、ありがとうございました」
皇が深々と頭を下げる。 かつては名前負けした「在庫」に過ぎなかった彼も、蓮の徹底した、それでいて見捨てない「事務的正論」によって、一人の自立した労働者へと更生しつつあった。
蓮は差し出された茶を啜り、窓の外を見た。 そこでは、かつて暴力に訴えていた転生者たちが、正規の手続きを踏んで店を開き、現地の住民と笑い合っている。
「……更生に必要なのは、力による制裁ではなく、正しい『居場所』と『手続き』。それさえあれば、人は何度でもやり直せます」
「旦那、いいこと言うじゃねえか」 桃華が串焼きを頬張りながら笑う。 「俺もよ、旦那に更生させられた一人だからな。……あぁ、今はこの場所が、俺の『極楽浄土』だ」
夕闇に包まれるオフィスに、静かな充実感が漂う。 事務員・九条蓮。 彼の仕事は、異世界を掃除するだけでなく、壊れた人々の心さえも「整理」し、前を向かせること。 その地道な歩みが、少しずつ世界を優しく変えていた。
後書き
はい、発送課の女神です! 今回は「更生」をテーマにした、ちょっといいお話でしたね。
皇くん、あんなにひどかったのに、九条くんに詰められすぎて逆に「真面目に働く喜び」に目覚めちゃったみたいです。 やっぱり九条くんは、人を導く天才(あるいは天然のドS)ですね!
如月さんたちも、九条くんが他の転生者を「更生」させていく姿を見て、 より一層彼への信頼……というか、惚れ直しちゃってるみたい。 「私も九条様に更生(再教育)されたい……!」なんて、 如月さんが呟いてたのは聞かなかったことにしておきますね!
さて、平和な日常が戻ったのも束の間。 更生した人たちが働ける場所を増やすため、 次回はついに、異世界中のモンスターや精霊までを対象にした 『異世界・合同就職説明会』を開催します!
「更生」した人々と、これから「雇用」される魔物たち。 カオス必至の面接会場で、九条くんのバインダーが再び火を噴く!?
お楽しみに!




