第7話:監査終了!? しかし九条蓮に「真の定年」は訪れない
天界のバランスシートは、今や完璧な黒字を示していた。 差し押さえられたゼウスは、隣の世界で「神速の開墾作業員」としてギネス記録を更新し続け、女神は管理局の地下で「一文字一円のデータ入力」という内職に勤しんでいる。
九条蓮は、誰もいなくなった最高神の執務室で、最後の一枚の書類に判を押した。
「……これですべての債務、および不適切な在庫の処理が完了しました」
「お疲れ様でした、九条様。……これで、ようやくあのお話ができますわね」 如月が、いつも以上に艶やかな微笑みを浮かべ、バインダーの上にそっと手を重ねる。 「天界と管理局の合併、および『新婚世帯への特別給付案』。……既に書類の不備はありません。あとは、あなたが受理するだけです」
「待て待てぇい! 旦那の『受理』は俺が決める! 日本に行くなら、俺が用心棒として戸籍に入るって決まってんだよ!」 桃華がドカドカと乗り込み、蓮の膝に強引に座り込む。
「九条さん、魔界の全資産を日本円に換金してきました! 港区のマンション、一棟買い占めておきましたからね!」 ベルフェリエが、札束の山(に見える魔界の債券)を抱えて叫ぶ。
「あー、皆さん。悪いニュースと、もっと悪いニュースがありますよ」 天井からカゲミツが、苦笑いしながら一通の「親展」と書かれた封筒を落とした。
蓮がその封筒を開くと、そこには――女神の涙の跡がついた、『異世界運営・永久委託契約書』が入っていた。
「……な、何ですこれは」
「女神様の最後っ屁ですよ。『私が破産して経営権を失った以上、次の経営者は、私を最も苦しめた監査官――九条蓮を指名する』って。これ、全宇宙の法規で『拒否権なし』に設定されてますね!」
『あははは! 九条くん、逃がさないわよ! 私が働けないなら、あなたが私の代わりに永遠にこの世界を管理(残業)しなさい! 職名は……“異世界CEO”よ!』 スピーカーから、女神の勝利を確信した高笑いが響く。
蓮の手に持っていたペンが、パキリと折れた。 日本での安穏な定年生活、こたつとみかん、そして平穏。 そのすべてが、「全知全能の経営者」という名の無限残業によって上書きされたのだ。
「……如月さん。天界の全門を閉鎖してください。カゲミツ、女神の潜伏先を特定し、追加の『名誉毀損』で再監査の準備を。……ベルさん、桃華。――武器を取ってください」
「「「九条様(旦那)……?」」」
蓮は、折れたペンを捨て、バインダーから**『神権剥奪・および世界再構築申請書』**を取り出した。その瞳には、かつてないほどの、事務的な怒りの炎が宿っていた。
「……定年を邪魔する神なら、私はその『神の座』ごと、歴史から削除します。……これより、全宇宙を巻き込んだ“最終監査”を執行します」
九条蓮の残業は、まだ終わらない。 いや、彼が「真の休息」を手に入れるその日まで、事務員のペン先が止まることは決してないのだ。
第2章:天界監査編 ——完——
今回の後書き:ゼウス(現・隣の世界の開墾作業員)
お、お疲れ様です……。実習生の、じぇうす、です……。 今日も今日とて、朝四時から素手で山を三つ崩してきました。腰が……腰が砕けそうです。 九条……あの男は、神より恐ろしい。
私が「もう無理だ」と言ったら、あの如月という女が「筋肉の差し押さえ(切断)」をちらつかせてくるんです。ベルフェリエは横で「あ、今の作業、ノルマに0.1秒足りませんでしたね」ってメモしてるし……。
でも、九条。お前も大変だな。 女神の呪いで「CEO」にならされるなんて。 全宇宙のクレームを一人で背負うその姿、かつての俺を見ているようだ。 ……ハハハ、ざまぁみろ。地獄の残業、楽しんでくれよ……。
(ここでゼウスは如月の手刀によって沈黙した)
次回、第3章開幕! 『神殺しの経営学:異世界すべてを「株式会社」に作り替えろ!』 お楽しみに!




