第3話:最高神の再教育! 労働基準法を百回唱えるまで帰れません
天界の豪華な会議室は、今や「特別再教育センター」へと作り替えられていた。 かつて全知全能を誇ったゼウスは、黄金の椅子を如月に差し押さえられ、今はパイプ椅子に窮屈そうに腰掛けている。
その目の前には、ホワイトボードに「コンプライアンスの遵守」と大きく書く九条蓮の姿があった。
「……ゼウス様。姿勢が乱れています。背筋を伸ばしてください。あと、その無駄に長い髭は『清潔感に欠ける』ため、就業規則違反です。後で如月さんに、手刀でミリ単位まで整えてもらいます」
「九条……貴様……! この俺に、こんなガキの使いのような真似を……!」
「ガキの使いではありません。『社会復帰』のためのプロセスです」 蓮は冷徹に、分厚い六法全書(天界法改訂版)をゼウスの鼻先に叩きつけた。
「あなたがこれまで行ってきた『気に入らない勇者は即消滅』という行為。これは不当解雇であると同時に、労働者への殺人未遂です。まずは労働基準法第1条から第121条まで、暗唱していただきます。一言でも間違えたら、最初からです」
「ふざけるな! 俺がそんな呪文のようなものを――」
「九条様。少々『物理的な学習支援』が必要なようですわね」 如月が音もなくゼウスの背後に立ち、その首筋に冷たい指先を添えた。 「ゼウス様。一回噛むごとに、あなたの神核をコンマ一ミリずつ圧縮いたします。百回噛めば……そうですね、あなたは『光り輝くただの石ころ』として、私のペーパーウェイトになっていただきます」
「ひ、ひぃっ……! 暴力反対! 労働者の権利を守れ!」 「その権利を今から学んでいただくんです。……さあ、始めてください」
蓮がストップウォッチを押すと、天界の最上階に、最高神の情けない絶叫混じりの朗読が響き渡った。
その頃、オフィスの外では、ベルフェリエと桃華が「ゼウスの隠し資産」の仕分けに勤しんでいた。
「見てください九条さん! ゼウスの金庫から、全宇宙の『魂の所有権』が出てきましたよ! これ、魔界の株価対策に転用……あ、いえ、適切に管理しますね!」 「旦那! こっちには『雷の種』とかいう物騒な武器がいっぱいあるぞ! 面んどくせえから、全部溶かして俺の特攻服のボタンにするか?」
「……カゲミツ。二人を止めてください。あと、ゼウスの個人PCから『女神との癒着の証拠』をすべて抽出。……逃げ道は、事務的にすべて塞ぎます」
「了解ですよ、旦那! ゼウスの検索履歴までバッチリ保存済みです! 意外と『理想の上司になる方法』とか調べてて笑えますよ!」
会議室に戻ると、ゼウスは泡を吹いて倒れかけていた。 だが、蓮のバインダーに情けの文字はない。
「……ゼウス様。今のはまだ三回目です。残り九十七回。終わるまで、天界に朝は来ません。私が太陽の運行を差し止めましたから」
「お、鬼だ……! 貴様は魔王より、俺より……よっぽど救いようのない悪魔だ……!!」
最高神を「新入社員」として叩き直す、九条蓮の終わらない残業。 天界の経営健全化への道は、まだ一歩目を踏み出したばかりだった。
今回の後書き:カゲミツ(隠密担当)
お疲れ様でーす! 皆のアイドル、おしゃべり影男のカゲミツですよ! いやー、最高神ゼウス様が「労働基準法」を泣きながら読んでる姿、マジで世界中に生配信したかったなぁ。九条様が「太陽のシフトを止めた」って言った時の、あの絶望した顔!
でも、旦那の本当に怖いところは、ゼウスの「髭の長さ」まで規則に当てはめて管理し始めたことですよね。如月さんの手刀で髭を剃られるゼウス様……。あ、あれ、髭じゃなくて首ごと持っていかれそうになってましたよ?
結局、この世界で一番強いのは、神の雷じゃなくて「就業規則」ってわけですね。 さて、次はゼウス様をどこの現場に派遣するんでしょうか? 私としては「魔界のドブさらい」あたりが妥当だと思うんですけどね!
次回、『最高神、現場へ。クレーム対応の荒波に消ゆ!』 お楽しみに!




