第二話:折れた聖剣と再就職のしおり
異世界に来て一週間。九条蓮の視界は、もはやファンタジーの輝きを失っていた。 デスクには山積みの「適性不一致通知書」。目の前では、金髪を逆立たせた転生者の少年が、机を叩いて喚き散らしている。
「ふざけんな! 俺の『極大爆裂魔法』だぞ!? 魔王を一撃で消し飛ばせるチートだぞ! なんでスライム駆除なんだよ!」
蓮は無言で、少年の頭上に浮かぶステータス画面を眺める。 (……ああ、また『爆裂』か。先週も三人いたな) 蓮は眼鏡を直し、固有スキル『翻訳不全』の出力を一段引き上げた。
「お客様。その爆裂魔法、最大射程は?」 「は? 一キロはあるぜ!」 「なるほど。では、これをご覧ください」
蓮が少年の目を直視した瞬間、スキルが発動する。 少年の脳内に、蓮が構築した「現実」の映像が、4K画質の生々しさで強制投影された。
少年が見たのは、自分が魔法を放った瞬間の映像。 直後、魔王ではなく近隣の麦畑が蒸発し、農家たちが血走った目で少年に詰め寄る。「金返せ!」「この人災魔導師め!」という罵声。そして突きつけられる、金貨三千枚(約三億円)の請求書。 支払えず、炭鉱の最下層で一生タコ部屋暮らしを強いられる自分の姿――。
「ひ、あ……っ!?」 少年が顔面蒼白になり、ガタガタと震えだす。
「現在、魔王軍とは『経済協力協定』の真っ只中です。魔王を倒すと国際法違反であなたが指名手配されます。それより……」
蓮は事務的に、一枚のチラシを叩きつけた。 「この爆裂魔法の熱を利用した『下水道の汚物消毒作業』。これなら資格手当がつきます。寮完備、三食付き。……現実(タコ部屋)よりはマシですよ?」
「……や、やります。お願いします……」 数分前までの威勢はどこへやら。少年は魂を抜かれた抜け殻のように、トボトボと部屋を出ていった。
「お疲れ様、九条くん。相変わらず『現実』の解像度が高すぎてエグいねえ」 先輩エルフがコーヒーを啜りながら笑う。蓮は答えず、次のボタンを押した。
「次の方ー、五番窓口へどうぞ」
現れたのは、豪奢なドレスを纏った美少女――「聖女」として召喚された転生者だ。 彼女は絶望の表情で、震える手でパンフレットを握りしめている。
「あの……わたくし、聖女なのに……。なんで、こんな、時給800ガルの『魔物用介護おむつ替え』の求人しか……っ」
「……お客様。今の時代、回復魔法はポーションの量産化でデフレを起こしてるんです。あなたの価値は『若さと体力』だけなんですよ。現実を見ましょう」
ペンを走らせる蓮の瞳には、もはや慈悲など欠片も残っていなかった。
第2話:あとがき
はい、発送課の女神です。皆さま、今日もお仕事お疲れ様です!
二話目にして、九条くんの「心の折り方」がすっかり板についてきましたね。 彼のスキル『翻訳不全』。 相手の脳内に「お前の夢を時給換算するとこれっぽっちだぞ」という現実を、超高画質なグラフ付きでダイレクト投影しちゃうんですから、そりゃあ勇者様たちのキラキラした瞳も一瞬で濁りますって。
でもね、これって彼なりの優しさでもあるんですよ。 中途半端に夢を見せて魔王軍の残党に食べられちゃうより、下水道で安定した給料と社会保険をもらう方が、今のこの世界ではよっぽど「救い」になりますから。……まあ、当事者からすれば「夢を殺された」以外の何物でもないんでしょうけど。
さて次回は、九条くんが初めての給料で立ち寄る、転生者たちの溜まり場……「居酒屋・チート」での一幕をお送りしましょう。 そこには、かつて世界を救った「元」勇者たちが、賞味期限切れの過去の栄光を肴に管を巻いているらしいですよ?
それでは、また次回。九条くんの胃が穴だらけになるまで、温かく見守ってあげてくださいね!




