第2話:CEO登場!? 最高神のパワハラを、労働基準法で却下せよ!
「……やれやれ。下の階が騒がしいと思えば、まさか一介の『在庫処理係』がここまで登ってくるとはな」
天界の最上階、重厚な自動ドアが開いた先。 そこにいたのは、黄金のデスクに座り、葉巻の代わりに「世界樹の枝」を燻らす筋骨隆々の老人――天界のCEOこと、最高神ゼウスだった。
「お初にお目にかかります。異世界入国管理局・九条です。……室内での喫煙、及び枝の燃焼による有害魔力の排出は、天界環境保全条例違反です。速やかに消火を」
蓮はバインダーを構え、一歩も退かずに言い放った。ゼウスは面白そうに鼻で笑い、デスクに太い脚を乗せる。
「ハッ! 法だと? 条例だと? 九条よ、この世界そのものが俺の『私有財産』だ。社長が自分の庭で何をしようが勝手だろうが。……文句があるなら、今すぐお前を『不当解雇(存在消滅)』してやってもいいんだぞ?」
ゼウスが指を鳴らした瞬間、天界の空間そのものが歪み、如月たちの足元に巨大な重力負荷がのしかかった。
「……くっ、これが最高経営責任者の権限……!」 如月が膝をつきそうになりながらも、鋭い視線でゼウスを射抜く。 「九条様……。この男、自分の不祥事を『経営判断』という言葉で全て握りつぶすつもりですわ。極めて、非効率的なトップです」
「あぁん!? 偉そうにふんぞり返りやがって! 旦那、こいつだけは俺の拳でも『硬すぎて』通らねえぞ!」 桃華が歯噛みする。最高神の権限は、物理的な破壊すら「仕様変更」の一言で無効化してしまうのだ。
だが、九条蓮だけは、冷徹にゼウスの「給与明細」と「経営計画書」を精査していた。
「ゼウス様。あなたは先ほど、この世界を『私有財産』と仰いましたね。……では、この『世界維持費に伴う未払い債務』、及び『全従業員(天使・人間・魔族)へのサービス残業代』の総計。……金貨八十京枚。これを今すぐ、あなたの個人資産から支払っていただけますか?」
「……何?」
「あなたが『私有物』だと言うのなら、そこに発生する全責任と全負債も、あなたの個人負担になります。現在、天界のバランスシートはあなたの放漫経営により債務超過。……もし今すぐ支払えないのであれば、あなたは『経営者』としての資格を喪失し、破産管財人である私の管理下に入ることになります」
蓮のスキル『翻訳不全』が、ゼウスの脳内に「全宇宙からの督促状」と、「神殿の全資産差し押さえ赤テープ」のビジョンを強制投影した。
「ば、馬鹿な……!? 俺が、破産だと……!? 俺は最高神だぞ!」
「神である前に、あなたは『支払能力のない債務者』です。……如月さん。ゼウス様のその黄金の椅子と世界樹の灰皿、差し押さえリストに加えてください」
「承知いたしました。……型落ちの神権など、二分で競売にかけて差し上げますわ」
最高神のプライドが、事務員の「冷徹な数字」によって粉々に砕け散った瞬間だった。
今回の後書き:如月(九条様・第一秘書)
お疲れ様です、九条様の秘書の如月です。 皆様、天界のトップがこれほどまでに「数字」に弱いとは、呆れて言葉も出ませんわね。 「俺がルールだ」などと仰る方は、大抵「自分のルールで発生した負債」の計算ができていないものです。
九条様の隣に立つ者として、あの最高神のふんぞり返った態度……。 手刀で首の角度を調整して差し上げる手間が省け、バインダー一枚で膝をつかせた九条様の鮮やかな手腕には、改めて惚れ直してしまいました。
次回の後書きは、ベルフェリエさんが「天界の資産を魔界へ横流しする喜び」について語りたいそうですが、業務に支障が出るので却下いたしましたわ。
次回、『最高神の再教育! 労働基準法を百回唱えるまで帰れません』。 九条様の事務処理、まだまだ終わりませんわ。




