第1話:神のオフィスは火の車
天界――そこは、清廉な雲が漂う楽園ではない。 巨大な魔導サーバーが唸りを上げ、数千の天使たちが寝食を忘れて「世界のシミュレーション」という名の重労働に従事する、超巨大な「異世界運営本部」である。
その聖域の門を、事務用バインダーを抱えた一人の男が蹴破った。
「――失礼します。管理局・発送担当の九条です。本日付で、天界バックオフィスへの特別臨時監査を執行いたします」
蓮の背後には、もはや「内定勝ち取りレース」という名目で完全にリミッターの外れた三人の修羅がいた。
「監査の邪魔をする警備天使は、すべて『不法な公務執行妨害』とみなし、物理的に排除します」 如月の眼鏡が鋭く光り、手刀一閃で天界の自動防衛システムが粗大ゴミと化した。
「神様ぁ! 隠し口座の暗証番号、さっきカゲミツさんにハッキングさせましたよ! 今さらデータを消しても無駄ですからね!」 ベルフェリエが魔王軍の旗を天界のロビーに突き立て、魔導通信をジャックする。
「オラァ! 女神を出せ! 旦那の定年を邪魔する奴は、神だろうが仏だろうが地層の肥やしにしてやるッ!」 桃華の咆哮で、天界の豪華な大理石の床に巨大な亀裂が走った。
阿鼻叫喚の天界ロビー。そこに、ホログラム映像の女神が、かつてないほど引きつった笑顔で現れる。
『ちょっと……九条くん! 冗談はそれくらいにして! 天界に土足で踏み込むなんて、完全な越権行為よ!?』
「越権、ですか。ではこれをご覧ください」 蓮はバインダーから、血の滲むような努力でカゲミツが盗み出してきた『天界・不適切支出内訳書』を突きつけた。
「あなたが個人的な趣味で買い集めた『地球の限定フィギュア』の代金。これを『勇者派遣の備品費』として計上していますね。……これは明確な背任行為、及び公金横領です」
『ギクッ……! そ、それは、勇者のメンタルケアのために必要な――』
「さらに、発送ミスで在庫となった転生者を、処理費用を惜しんで『魔界のゴミ捨て場』へ不法投棄した形跡もあります。……女神様、あなたは『世界の経営者』である前に、一人の『無能な管理職』です」
蓮のスキル『翻訳不全』が、天界の全フロアに響き渡った。 それは単なる言葉ではない。神が隠してきた「恥部」を、全天使たちのモニターに**「赤字のグラフ」**として強制出力する、事務的な処刑宣告だ。
「……本日、午前10時を以て、天界の全資産を凍結。及び、あなたの『神』としての権限を、一時的に管理局が差し押さえます。大人しく出頭してください。――さもないと、如月さんが物理的な『強制解雇(物理攻撃)』を執行することになります」
「ふふ、準備はできておりますわ」 如月の拳が、天界の空間をピキリと割る。
女神の絶叫が天界に響き渡った。 異世界を救った事務員の次なる仕事は、「神の脱税を暴き、世界をホワイト企業に作り変える」こと。
「さあ、カゲミツ。隠し金庫の場所へ案内してください。……一銭残らず、世界の復興予算として徴収しますよ」
【後書き】
はい、元・発送課の女神です!……って、ちょっと待って! 私のプライベートなフィギュアコレクションまで「差し押さえ」なんて、九条くん、あなたに人の心はないの!?
如月さんは私の預金通帳をシュレッダーにかけてるし、ベルちゃんは天界のシェアを魔界に書き換えてるし、桃華ちゃんは私の寝室を「更生施設」にリフォームしようとしてるし!
もういいわよ、こうなったら最終手段! 天界の「最高経営責任者」を呼び出して、あなたを「生涯、天界から出られない永久残業刑」に処してやるんだから!
次回、『CEO登場!? 最高神のパワハラを、労働基準法で却下せよ!』。 九条くん、あなたの「ペン」と私の「神権」、どっちが強いか勝負よ!




