第十六話:強行突破、そして天界監査(レイド)開始
「……皆様。まずは殺気を収めてください。庁舎の備品損壊は、すべてあなたの『評価点』から減点されますよ」
蓮は予備の眼鏡をかけ直し、冷徹に告げた。だが、三人の瞳に宿る火はもはや「事務」では消せない。 如月は政府公式の婚姻届を、ベルは永劫従属契約書を、桃華は血判状を――それぞれが「愛」という名の強制執行を蓮に迫る。
そこへ、天井の影からカゲミツが楽しげに爆弾を放った。 「おっとぉ! でも女神様がボソッと言ってましたよ。『あの空に浮かぶ“在庫のバグ”、あれは私の不適切会計で生じたゴミなの。誰か片付けてくれたら、九条くんとの内定(結婚)を出してあげてもいいわよ』ってね!」
「カゲミツ、貴様ぁ……!」
蓮が怒る間もなく、三人の視線が窓の外――空を覆い尽くす巨大な怨念の塊へと向いた。 それは女神が長年隠蔽してきた、『処理不能な転生者の廃棄データ』が物理化したもの。いわば、天界の粉飾決算の成れの果てだ。
「「「……あれを消せば、内定(婚姻)は私のものね(んだな)!?」」」
「えっ、あ、ちょっ……」
制止を聞く間もなく、三人は窓を突き破り、天界の結界ごと敵を粉砕しに飛び出した。 如月の身体強化が空を裂き、ベルの魔王軍艦隊が「著作権侵害物」を焼き払い、桃華の拳が次元の壁を叩き割る。
あまりの光景に、地上の転生者たちは戦意を喪失して呆然と見上げた。 そこにいるのは救世主ではない。「新婚生活」という名の利権を勝ち取るために、神の隠蔽工作を文字通り「物理消去」していく、三人の修羅だった。
「……九条様、道は開けました。バグの消滅と共に、天界のバックオフィスへの防壁が消失しています」 通信魔法越しに、返り血(データの残滓)を拭いながら如月が微笑む。
蓮は静かにバインダーを開き、特大の「監査中」と書かれた腕章を巻いた。 「……カゲミツ。君のデタラメな情報のおかげで、予定通り『天界への物理的な強制介入』の口実が整いました。……給料カットは保留にしておきます」
「えっ、あ、わざと煽らせたんですか!? 旦那、マジで性格悪い(有能)!」
蓮は、三人がぶち開けた「天界の門」を見据え、一歩を踏み出した。 「これより、天界の特別監査を開始します。――如月さん、ベルさん、桃華。神の『隠し財産(不正データ)』をすべて差し押さえに行きますよ」
九条蓮、最後の残業。 そのターゲットは、もはや転生者ではなく、この世界の「経営者」そのものだった。
【後書き】
はい、天界の発送課です! 九条くん……あなた、なんてことをしてくれたの!? 私がせっかく隠してた「在庫のゴミ(バグ)」を、あの子たちが物理で更地にしちゃうなんて。しかも、その勢いで私のプライベートオフィスまで壊すつもり!?
ちょっと、待ちなさいよ。 天界の金庫には、あなたたちが一生遊んで暮らせるだけの『隠し魔力』があるけど、それを差し押さえるなんて、事務員として越権行為じゃない!?
次回、最終決戦! 『神の帳簿を焼き尽くせ! 九条蓮、前代未聞の「神への退職勧告」』。 九条くん、あなたのバインダーで、私の経営を終わらせるつもり? 受けて立つわよ!




