第15話:修羅場と、神の強引なM&A
「ふぅ……。これでリストラ対象の八割は送還完了ですね」
管理局のオフィス。蓮は椅子に深く腰掛け、ようやく眼鏡を外して目を閉じた。 傍らでは如月が完璧な温度の紅茶を淹れ、ベルフェリエが魔界スイーツを並べ、桃華が「旦那、肩揉んでやろうか?」とそわそわしている。まさに戦士の休息――だが、その静寂をカゲミツの「爆弾発言」が切り裂いた。
「いやぁお疲れ様!でも女神様が言ってましたよ。『九条くんが完遂したら、ボーナスとして好きな子一人連れて、日本で新婚生活を送らせてあげる。――ただし、選ばれなかった子は“余剰資産”として一括削除するけどね』って!」
「……は?」
蓮が目を開けた瞬間、部屋の温度が絶対零度まで下がった。 如月のティーカップにひびが入り、ベルの羽が逆立ち、桃華の拳がギリリと鳴る。
「カゲミツさん。今の話、詳しく。……特に『削除』の項について」
如月の声は、深淵の底から響くような殺気を孕んでいた。 カゲミツは震えながらも、女神から預かった一枚の契約書を差し出した。そこには、目を疑うようなタイトルが記されていた。
【世界再編に伴う、異世界合併吸収(M&A)執行計画書】
「女神の本当の目的はこれですか。リストラでコストを削減し、優良資産(主人公とヒロイン一人)だけを抽出。残りの世界と人員は、他世界へ売却・統合するための『整理ポスト』に送る……」
蓮の分析に、ヒロインたちの表情が強張る。 「九条様の『第一秘書』として、削除などという非効率な結末は認められません。……九条様、私を選び、他を切り捨ててください。それが最も事務的に正しい」 「な、如月さん! 私を魔王軍ごと買い叩くつもり!? 九条さん、私なら魔界のリソースを全てあなたに捧げます!」 「理屈じゃねえんだよ! 旦那、俺を選んでアイツらを救う方法を考えろッ!」
「「「九条様(旦那)、決断を!!」」」
三人の怒号が重なり、管理局の建物が物理的に軋む。 だが、蓮はゆっくりと眼鏡をかけ直し、女神から届いた『M&A計画書』に、特大の赤ペンで**「却下」**の文字を書き殴った。
「……皆さん、勘違いしないでください。私は『一人を選ぶ』などという、管理コストの増大を招く選択はしません」
蓮は虚空を見上げ、通信魔法の向こう側でニヤついているであろう女神へ、冷徹な宣戦布告を放った。
「女神様。このM&A、労働基準法及び異世界独占禁止法に基づき、全面的に却下します。私は――このメンバー全員を引き連れて、あなたの『経営責任』を追及するために、天界へ殴り込み(会計監査)に行かせてもらいますよ」
異世界最大の危機は、今や「神vs事務員」という、前代未聞の泥沼裁判へと発展しようとしていた。
【後書き】
はい、天界の発送課です! 九条くん、ついに気づいちゃいましたね。
そう、今回のリストラは、この世界を「高値で売り払う」ための下準備。 え? ヒロインを一人選べば他は消えちゃうのかって? 当たり前じゃないですか。在庫一掃セールに「売れ残り」は厳禁ですよ。
でも、九条くん。 「監査」に来るなんて、本当に可愛くないわね。 天界の帳簿は、魔王城のゴミ屋敷よりも複雑怪奇なんだから。果たしてあなたのバインダーで、神の「不適切会計」を暴けるかしら?
次回、『天界監査開始! 神の隠し財産を差し押さえろ!』。 九条くん、ついに定年を賭けた最後の残業が始まります!




