第十三話:リストラ執行!不祥事と裏帳簿の雨
異世界入国管理局の前庭。数千人の転生者たちが放つ殺気が、物理的な熱となって空気を歪めていた。
「ふざけるな! 事務手続き一つで俺たちの自由を奪えると思うなよ!」 「俺たちは選ばれた救世主だ! 帰れと言うなら、この剣で分からせてやる!」
怒号の渦。その中心へ、九条蓮はいつものように糊のきいたシャツを正し、バインダーを抱えて歩み出た。
「……静かに。業務の邪魔です。スピーカーのハウリングより耳障りですよ」
蓮が右手を上げると、影からカゲミツが音もなく現れ、一人の男を指差した。 「旦那、あれがリーダーの『爆焔の勇者』。表向きは聖人君子ですが、裏ではギルドの運営費を横領して高級クラブの愛人に貢いでます。証拠の裏帳簿と、決定的な密会写真は確保済みですよ」
「よくやりました。……では、『公開査定』を始めましょう」
蓮のスキル『翻訳不全』が、最大出力で起動する。 管理局の壁面が巨大な魔導スクリーンと化し、そこに「爆焔の勇者」が愛人と抱き合いながら、ギルドの金を数えている映像が超高画質で映し出された。
「なっ……!? なんだこれは、捏造だ! やめろッ!!」
「いいえ、これは確定した事実です」 蓮は冷徹に、バインダーに挟んだ書類を読み上げる。 「あなたは横領罪、及び脱税の疑いで、本日付で『全資産の凍結』が執行されました。あなたが今握っているその聖剣も、今この瞬間から管理局の差し押さえ物件です。……如月さん」
「はい。……『強制徴収』いたします」 如月が神速で踏み込み、勇者が反応する前に聖剣をへし折り、男を地面に埋め込んだ。
「リーダーが……一瞬で無力化された……!?」 動揺する群衆に、蓮が追い打ちをかけるように数千枚の『退職勧奨通知書』を、カゲミツの影から降らせた。
「そこに記されているのは、あなたたちの前世での住所。そして――送還後の『再就職先』です」
通知書を手に取った勇者たちが、次々と悲鳴を上げた。 「な、なんだこれ……『深夜のサバの味噌煮缶詰工場・検品担当』!? 月給18万……週休1日……!?」 「こっちは『クレーム電話24時間対応センター』!? 嘘だろ、魔王と戦うほうがマシだ!」
「嫌なら、今ここで『自主退職』のハンコを押しなさい」 蓮の声が冷たく響く。 「暴力で抗うなら、桃華の拳が相手をします。逃げるなら、ベルフェリエの魔王軍が空から追跡します。……選ぶのはあなたたちだ」
桃華が地面を叩き割り、ベルが空を黒い翼で覆い尽くす。 最強の武力と、逃げ場のない「現実(再就職)」を突きつけられた勇者たちは、泣きながらバインダーに並び始めた。
これが、異世界史上最大の「人員整理」。 九条蓮のペン先一つで、世界は今、強制的に『最適化』されようとしていた。
【後書き】 はい、天界の発送課です! 九条くん、えげつないですね……。 「爆焔の勇者」さん、あんなに格好つけてたのに、浮気現場を4K投影されるなんて、もう元の世界に帰っても生きていけませんよ。
それにしても、再就職先のラインナップ。 「深夜のサバ缶工場」って、九条くん。あれ、私が昔バイトしてて腰を痛めた現場じゃないですか! 勇者たち、魔王と戦う覚悟があるなら、サバの骨を抜く作業くらい余裕……なわけないですよね。
次回、ついに『大送還!そして女神の「本当の目的」』。 九条くん、このまま定年まで逃げ切れるのか!? お楽しみに!




