第十二話:沈黙できない影(スパイ)
「九条様!たった今、強制送還に反対するギルドの密談を盗み聞きしてきましたよ!あ、その前にこのお茶菓子、魔王城の限定品ですよね?一個……いや、気づいたら三個食べてました!」
蓮の影から、ぬるりと一人の青年が這い出てきた。 全身を忍装束で包んでいるが、マスクの下からは絶え間なく言葉が溢れ出している。 名はカゲミツ。隠密スキルは世界最高峰。だが、致命的なまでに「沈黙」ができない男だ。
「……カゲミツ。報告を簡潔に。一文字一円のコスト意識を持ってください」
「えー、簡潔にですか?無理ですよ!彼らが合言葉を『九条蓮は一生独身』に決めるまでの爆笑の議論を、私のプライドがスルーさせません!場所は三番街の廃倉庫。罠は三つ。あとリーダーの浮気相手が副リーダーにバレそうになって修羅場でした!」
カゲミツは、聞いてもいないプライベートな情報まで捲し立てる。如月が冷やかな視線を向け、手刀を構えた。 「カゲミツさん。その無駄な情報、私の手で『圧縮(物理)』しましょうか?」
「ひぃっ!如月さんの身体強化手刀はマジで笑えない!でも如月さん、今日の香水、昨日より少し甘めですよね?さては九条様を意識して――」
次の瞬間、如月の手刀が空を裂き、背後の壁を粉砕した。だが、カゲミツは既に蓮の椅子の影へと移動している。
「あぶなーい!あ、そうそうベルフェリエさん!昨夜、九条さんの似顔絵を描きながら『政略結婚ならワンチャン……』って呟いてたのもバッチリ記録済みですよ!」 「なっ、何でそれを!?この、おしゃべり影男ぉ!」
「桃華ちゃんも、寝る前に特攻服を抱きしめて『旦那……』って――」 「テメェ……!殺す!根掘り葉掘り埋めてやるッ!」
オフィス内が怒号と爆辞で混沌と化す中、蓮は静かに耳栓を装着し、手帳を開いた。 「……カゲミツ。その浮気相手(証人)の確保と、ギルドが隠している『裏帳簿』の奪取。それが完了次第、強制執行を開始します」
カゲミツの「口の軽さ」は、蓮の手にかかれば、敵の防壁を内側から腐らせる最強の『不祥事リーク』へと変わる。
「了解ですよ旦那!あ、ついでにリーダーのへそくりの隠し場所もバラしてきますね!」
微笑む狂犬秘書、ヤンキーロリ、過労悪魔、そして沈黙できない影。 「十万番目の在庫」が率いる、異世界史上最も容赦のない「リストラ」が、ついに幕を開ける。
【後書き】 はい、天界の発送課です! 九条くん、とんでもない「スピーカー」を拾ってきましたね。 カゲミツくん、隠密としては満点なんですけど、口の軽さは天界のゴシップ雑誌並みですよ。
でも、九条くん。彼が持ってきた「浮気」や「へそくり」の情報、これこそが「最強の交渉材料」になるのを瞬時に理解するあたり、本当に性格が……いえ、事務能力が高いですね!
次回、ついに『リストラ執行!浮気と裏帳簿で詰む勇者たち』。 九条くんのバインダーが、どんな阿鼻叫喚を巻き起こすのか……お楽しみに!




