第十一話:死神秘書と、差し押さえの雨
「……九条様、お疲れのようですね。こちら、脳の処理速度を1.5倍に引き上げる特製ブレンドです」
管理局の蓮のデスク。音もなく背後に立ち、コーヒーを置いたのは、完璧なスーツを纏った女性――如月だ。
「助かります、如月さん。例の『勇者連合』によるストライキの進捗は?」 「はい。管理局前の広場に、現在三千人の転生者が座り込んでおります。彼らは『強制送還反対』『勇者の権利を守れ』とシュプレヒコールを上げていますが……ふふ、実に非効率な集まりですね」
如月は、細い指先で眼鏡の縁をなぞり、優雅に微笑んだ。 そこへ、騒がしい二人が乱入してくる。
「おーい、九条! 表のデモ隊、ぶっ飛ばしてきていいか!? ……んだよ、この透かした女は!」 「九条さん、新しいスタッフなら私に相談を……!」
桃華とベルの牽制を、如月は表情一つ変えず、深々と頭を下げて受け流した。 「九条様の第一秘書(執行担当)を拝命した如月です。お転婆な妖精さんと、角の生えたお嬢様。……九条様の貴重なリソースを浪費させぬよう、願いたいものですわ」
「あぁん!?」「なっ……!」
その時、庁舎の扉を蹴破り、ストライキの代表を名乗る転生者が、血気盛んな一団を率いて雪崩れ込んできた。
「九条! 出てこい! 俺たちの『勇者活動』を強制終了させる権利がどこにある! 納得いかねえなら、この斧で――」
「九条様。少々、『物理的な差し押さえ』が必要なようです」
如月が静かに一歩前に出た。 彼女が指を鳴らした瞬間、彼女を中心に「重力加圧」の事務的魔法が展開される。
「……不調法なゴミ(イレギュラー)に、発言権はありません」
次の瞬間、衝撃音すら置き去りにする神速。 如月の手刀が斧の柄を分子レベルで粉砕し、そのまま男の喉元を掴んで、防音壁へと時速二百キロで叩きつけた。
「ひ、あ……が……っ!」
「静かに。今、九条様があなたの『人生の清算』についてお話し中ですよ」
如月が男を壁に固定したまま、蓮が冷徹にバインダーを開いた。
「――『翻訳不全』。広域通告」
蓮の言葉が、表で騒ぐ三千人の脳内に「法的な死の宣告」として響き渡る。
ストライカーたちが見たのは、自分たちの足元から伸びる**『不法占拠に伴う賠償金請求』**の赤い影。 勇者連合の全資産は、今この瞬間をもって管理局が差し押さえました。 武器、防具、聖剣、そしてあなたたちが異世界で稼いだ全預金。……全ては『送還費用の補填』として没収済みです。
「う、嘘だろ……俺の全財産がゼロに……!?」 「身ぐるみを剥がして、地球(地獄)へ送り返す。それが今回のプロジェクトです。……如月さん、抵抗する者は『強制執行』を」
「承知いたしました。……骨の一本一本を、事務的に調整して差し上げますわ」
如月の瞳からハイライトが消え、殺戮機械のようなオーラが立ち昇る。 そのあまりの豹変ぶりに、桃華もベルも、言葉を失って震え上がった。
こうして、事務員・悪魔・ヤンキー・狂犬秘書。 異世界を「更地」に変える、最凶の在庫処理チームが完成した。
【後書き】
はい、天界の発送課です! 九条くん、とんでもない「狂犬」を飼い慣らし始めましたね。如月さん、天界の監査部でも「あの人とだけは予算交渉したくない」って言われてる有名人なんですよ。
それにしても、勇者連合のストライキ。 「権利を主張する前に、義務(納税と支払い)を果たせ」という九条くんの正論パンチが、如月さんの物理パンチと合わさって、もう見てるこっちが痛いです。
次回、ついに『強制送還プロジェクト、第一陣出荷』。 阿鼻叫喚の管理局ロビーで、九条くんが下す「最終判断」とは……? お楽しみに!




