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新しい世界で、産声を上げる


「産まれましたよ! 立派な男の子です!」


 曖昧で靄のかかったようだった確かな声が聞こえた。

 生まれたての体で身体機能がまだ未熟だからだろうか、声もそうだが体の自由は効かないし、視界も悪い。


「あなた! 私たちの子よ!」


 大人びた声の女性が叫んだ。息が上がっていて苦しそうに感じる。

 出産を終えてすぐなんだ、男だったオレには到底理解のできない苦痛や疲労感を感じているんだろう。


 理解する気がないわけじゃないが男のオレには何があっても全て理解できるわけじゃない。ここは下手なことを言うまい。

 今の時代、変なことを言えば炎上してしまうしな……。


「あぁ、そうだな! お疲れ様! それと、ありがとう!」


 男が次に声を上げた。曖昧な視界からでもかなり豊満な体をしていることが見て取れる。

 既にかなり泣いているらしくその声は震えていて、時折うっ、うっと嗚咽が聞こえる。

 オレの母親より泣いている。一番頑張った母親より泣いてどうするんだ。男ならドンと構えて気丈に振る舞ってやるべきだろう。


「なぁ、名前付けてあげてもいいか?」


 名前。そうか、もう元の世界じゃないからオレのこの本部凛。という名前はもう無くなってしまうのか。特別な想い入れがあった訳じゃないが、二十年間オレという存在を象徴していてくれた名前は無くなってしまうのか。少し寂しいな。


 それにしても異世界での名前か……どんな名前になるんだろう。


「えぇ、名前を付けてあげて」


「この子の……こいつの名前は……」


 ――ミリヤ。ミリヤ・ソティアだ。


ミリヤね。呼びやすいし親しみやすし、いい名前じゃないか。

 自分の名前と言われると少しむず痒いが、それは時間が解決してくれるだろう。


 じゃあな、本部凛。これからよろしく、ミリヤ・ソティア。


***


 ボクが生まれてから三年の月日が経った。

 この世界についてこの三年でかなり知ることが出来た。


 まずこの世界にはいくつかの大陸があり、いくつかの大国が小国を統治している形になっている。

 日本の中に新潟国とか独立国家四国みたいなのがある感覚に近いだろう。

 今ボクがいるのは西の国‘‘ヴィルトース‘‘という国らしいがその国のどこらへんにいるかその詳細は分かっていない。

 

 そして一番重要なこの世界と前の世界日本との違いは、魔法や武器があり、中世西洋のような世界で、文明レベルは日本より数段低い。スマホもパソコンも無ければ、そもそもインターネットすらない。現代っ子がいきなり江戸時代に飛ばされたような感覚だ。


 とはいっても生活において現状何か不便だと感じることはなく、最初は全く理解のできなかった文字の読み書きも今となっては問題ない。

 でも最初はすごい苦労したな。日本語とは言語としての構成が全然違っていて、身体が未熟なボクにとって、見て発して聞いて覚えるということが難しく、記憶能力も未発達だからすぐには憶えられなかった。 


 魔法や武具に関しては、この世界には案の定魔物が存在しているらしく、「魔力を持った野生生物」の略称が魔物。

 一度だけ魔物を見たことがあるが一言でいえば日本の動物に角や牙を付け加えたような見た目だった。


 日本でクマ出没が大きな問題になったようにこの世界でも集落に魔物が時折現れる。

 その時は容赦なく魔物を討伐に皮と肉と骨に分けて近所の人と焼肉パーチータイムだ。

 こっちの世界ではウサギに鹿、豚に鶏肉が主に食べられていて、日本のものと味も大して変わっていなくてよかった。


 海外旅行で一番苦しむのは日本との食べ物の味や香りの違いとはよく言うしな。


 で、まあ話を戻すとその魔物を討伐するときに魔法や武具を使う。

 一応地図を書き換えてしまうほどのド派手な魔法とかもあるらしいがここら辺でそんな魔法を放つ必要はないため誰も覚えていないらしい。


「ミリヤちゃん、ご飯の時間でちゅよー」


 母さんの声が聞こえた。

 窓の外を眺めていると後ろから抱きかかえられ椅子に座らされる。

 そのまま母さんの差し出してきたスプーンの上のご飯を口に入れる。うん、美味い。


 とはいえ、見た目は赤ん坊、中身は二十三の美青年。

 いくらオレの性癖が広いとはいえ赤ちゃんプレイは未経験だし未知数だし何より気恥ずかしさがある。

 両親の愛が重い分、恥ずかしさで辛い。


「母さん、ボク魔法使ってみたい」


 言い忘れていたがボクが言語を理解したのは二歳の頃。しかし体は発達していなくてこうやって喋れるようになったのはつい最近だ。

 だから、一言喋るたびに母さんは子供の成長に涙を流し感動している。一度泣くとこの人はしばらく泣き止まず、泣いている間は何もできなくなる。


 言わなくても分かるだろうが、あえて言おう。

 ボクの両親は途轍もないほどの親バカなのである。


「母さん、大丈夫? どこか痛いの?」


 母さんを慰める。涙が更にあふれる。

 頭を撫ででみる。涙が更にあふれる。

 涙を拭ってみる。涙が更にあふれる。


 もう何をしようがこの人から水分がなくなるまで泣き止むことはない。


「ミリヤまた母さん泣かせてるの?」


「違うよ姉さん!」


 ボクのこの世界の姉アレティナ。さっきまでお昼寝タイムだったが腹を空かしたのか少し遅れて椅子に腰かけた。

 活発、褐色の元気な少女。褐色ロリと言うのはどの世界でも存在しているらしく、ボクの心はぴょんぴょんしている。


 ただ、勘違いしてほしくはない。オレはロリは好きだが小学生以下を認めるほど気持ち悪くはない。

 つまりだ。血縁者でありまだ小学生でもないこの姉を性的対象として見ることは一切ない。


 可愛い子を見て可愛いと言っているだけなのであるので勘違いはしないでほしい。


「じゃあどうして泣いてるのよ!」


「ボクが魔法を使いたいって言ったら泣いちゃったの!」


 別に意識してるわけではないが、言葉遣いが子供っぽくなっている。転生して体が子供になった影響で精神年齢も少し下がっていたりするのかな。知らんけど。


「姉さんも魔法使えるなら、教えてよ!」


「フンッ! ミリヤに魔法は百年はやいよ!」


「姉さんは五歳で魔法教えてもらったんででしょ? ならあと百年はおかしいよ」


「お姉ちゃんに口答えしないの!」


 姉さんは手に持っていたフォークを投げてきた。

 正確に狙ったわけではないだろうがそれは眉間に向かって飛んできた。だから掴んで止める。

 この椅子の上で避けようとして倒れて頭打つとかの方が怖いし痛そうだからそうするしかなかった。


「コラ、二人とも喧嘩しないの!」


 ここでようやく泣き止んだ母さんが止めに入る。

 代わりに怒られてしまった姉さんが泣きはじめる。

 止めるの遅いななんておもうが正直今のはボクが悪かったなと反省をする。

 相手はまだ五歳の子供だ。ボクの姉ちゃんであっても精神年齢でいえば一回り以上の歳の差がある訳で、こうなる事も考えなかったボクが悪かった。……謝ったりはしないけど。


「ミリヤが魔法使いたいのは分かったけれど、魔法はもう少し待っていてね」


 結局、姉さんをなだめるのに精いっぱいでそれ以上話してはくれなかった。

 まだ魔法が使えない。五歳になるまでは何か制約があるのだろうか。もっとこの世界の事勉強しておかないとな。

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