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「B・P・S・D」  作者: 富嶽
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第2章 影の尾行

2025年5月13日午後5時を過ぎたころ、共有スペースの僕のいつもの食事用テーブルに広げた自動車のカタログに目を通していると、赤城さんが近づいてきた。


「何を見ていますか?」


彼の声に、またあのパターンが始まると直感した僕は、咄嗟に「今、忙しい」と言って嘘の電話を装いながら自室へ逃げ帰った。彼もそれに続いて自室に戻った。


しかし、しばらくしてまたテーブルに戻ると、彼も姿を現し隣のテーブルに座ってじっと僕を見つめている。今度は本物の友人から電話がかかってきたため応答していると、彼は僕の背後を何度もウロウロと取り巻いていた。


電話が終わり、嘘電話を続けるふりをして自室に戻ろうとすると、共有スペースに出た瞬間、彼がソファに座っているのが目に入った。嘘電話を続けながら靴を履き替えようとしたところ、彼も同じく靴を履き替え始めた。気持ち悪さが込み上げ、「忘れ物をした」と電話で伝えるフリをして、再び自室へ逃げ込んだ。


散歩から戻ると、彼は施設の前をうろついていた。もう一周散歩に出て戻ると、今度はソファに座り僕を見つめている。門限ギリギリまで時間を稼ぎ、急いで自室に戻った。


翌5月14日午前7時10分頃、朝の散歩から戻ると、彼が玄関から出るところに鉢合わせた。僕はやり過ごすために中へ入ると、彼も中に入り、僕が自室へ戻ると彼は共有スペースで杖を叩きながらぶつぶつと呟き、徘徊している。


朝食のためテーブルに座ろうとしたら、食事中のはずの彼が部屋から出てきて僕に向かってきたため、僕は朝食を持って自室へ戻った。彼はしばらくウロウロした後、自室へ戻る。


昼食時も同様の状況で、一度は自室で食事をしたが、僕がこそこそするのに我慢できず、共有スペースで食べることにした。


午後1時の散歩に出ると、彼がソファに座り僕を見て立ち上がり靴を履き替え始めたため、僕は自室へ戻った。彼はぶつぶつ言いながら再びソファに座る。


彼が自室に戻った隙に自室のドアを開けて出ようとすると、彼も出てきて共有スペースを徘徊し始めた。


夕食時、テーブルで食事をしていると彼も自室から出てきて後ろをうろついた。


食後、熊野古道の地図を広げているとまた後ろをうろつき、「何を見ていますか?」と声をかけてきたが、僕は地図に夢中なふりをして無視した。


午後5時過ぎ、会社の人が面会に来るので迎えるために外に出ようとすると、彼が杖も持たずにそそくさと外に出てきた。僕はあえて遠くに歩き出したが、彼は追いかけてきたため全速力で振り切り、近所を一周して戻ると彼は自室に戻っていた。


結局、彼の狙いは分からなかった。もしかすると、火曜日午後のリハビリの先生から「仲直りするよう話しかけなさい」と言われ、彼なりに努力しているのかもしれない。あるいは、刈谷さんから「共有スペースでもめ事を起こすな!」と釘を刺され、共有スペース外で絡むつもりなのかも知れない。


僕は彼とは目を合わせたくない。彼が僕を睨んでいるのか、それとも普通に見ているのかすら判別できない。


共有スペースで僕の後ろをうろついている時に職員が来ると、彼は遠くに行き、職員が出るとまた僕の周囲を徘徊し始める。

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