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「B・P・S・D」  作者: 富嶽
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第一章 寝たきりからの目覚めと暗闇の影

これは僕が現在入所している、介護施設「ヒマワリ」で起こっている、隣人赤城によるストーキングの被害とそれに対する施設の対応の記録です。

なお、この作品はフィクションであり、登場人物及び施設、企業、団体は架空のものです。

僕の名前は大林、50歳の男だ。

手足が麻痺する病気に襲われ、大病院で手術を受けてから約2年間、ほとんど寝たきりの生活を送った。


手術後の半年は病院で入院し、その後は高齢者施設「アサガオ」に約1年入所した。

少しずつ立ち上がり、歩けるようになってきた頃、外出が自由な姉妹施設「ヒマワリ」へ転居した。


2025年の1月半ば、まだほとんど歩くこともままならなかった僕に対して、先に入居していた赤城さんは70歳の男性で、脳梗塞の後遺症で半身不自由ながらも、片道1時間かけて約500メートル離れたスーパーまで歩いて行っていた。


僕はリハビリを繰り返し、やがて片道2キロ近く歩けるようになっていった。そんなある日、赤城さんと一緒に近所を散歩することになった。

しかし、彼の歩く速度は僕の足には遅すぎて、彼に合わせると負担が大きくなるため、結局一緒に歩くことは控えた。


共有スペースで彼に話しかけられても、「え?え?」と何度も聞き返されることが多く、彼の陰気な話に付き合うよりはスマホをいじっていた方が気が楽だった。

彼が来るときはいつも「座りますか?」と声をかけていたが、「いいよ」と言われて座ることはなかった。


4月5日、友人たちに誘われ「焼肉クイーン」へ行き、美味しい焼肉を堪能した。

食事後は僕の部屋で友人2人と楽しく談笑し、社会復帰して車を買う夢を語り合った。


だがその夜、消灯後にベッドで横になっていた僕は、食べ過ぎで気分が悪くなり、共有スペースのソファで休んでいると赤城さんも現れた。

彼に事情を話すと、「だから今日、駐車場に車が何台か止まっていたのか」と言い残し、自室に戻った。


4月7日朝6時頃、隣の赤城さんの部屋から大きな物音と怒声が聞こえ、施設長の刈谷さんに伝えると、「また始まったか」と呟いた。

夕方、職員から「赤城さんのせいで共有スペースの手洗い場を使わない方がいい」と言われた。

利用者である僕が共有スペースの設備を使う権利を妨げられることに、怒りが込み上げた。


翌8日午前6時半頃、赤城さんが突然激昂し、僕の右手に掴みかかってきた。

僕は左手で彼を押し返し、職員の高田さんが間に入り事態は収まった。

その日は恐怖から本館に避難した。


後日、施設長に赤城さんの言い分を聞くと、彼は僕の動きを「監視されている」と感じており、自分は僕に突き飛ばされたと主張。

施設長は「喧嘩両成敗」と片付けたが、僕は「振り払っただけだ」と主張したものの、職員に確認はされなかった。


職員寺崎さんの話では、赤城さんは医師から心の病を診断されており、春になると凶暴化するという。

寺崎さん自身も暴力を受けたため、彼の介護を拒否しているそうだ。

過去に僕の部屋に入居していた利用者もトラブルで転居し、職員の多くが赤城さんにうんざりしているという。

ある意味、再び暴力事件を起こさせて強制退去させたい意図もあり、僕はその“撒き餌”にされているのかもしれない。


4月9日、僕はできるだけ本館に避難しようとしたが、施設長の指示で追い出され、ベンチで時間を潰した。

施設長は「一度暴れたらしばらくは大人しくなる」と安心させようとしたが、僕は「保証はない」と疑問を投げかけた。


しばらくして共有スペースに戻ると、赤城さんがゆっくりと近づいてきた。

僕はスマホで動画を撮影し始めた。

彼は僕に詰め寄り、暴力を挑発するかのように顔を近づけたが、僕は冷静に応戦した。


やがて施設長と職員寺崎さんが駆けつけたが、赤城さんは暴力を否定。

僕が録画した動画を見せようとしたが、受け入れてもらえず削除された。


4月12日朝、施設の前にはパトカーや救急車が並び、警察の無線で「利用者がカッターナイフで職員を斬りつけた」と聞こえた。

恐怖に駆られ施設を飛び出し、職員からは「晩ごはんには帰ってきてね」と声をかけられた。

その日の夕方、部屋の鍵が壊れているのが判明。

施設長は修理は月曜以降と言い、僕は実家に避難することを決めた。


4月14日、ケアマネジャーの中尾さんと密かに会い、施設の対応に疑問をぶつけた。

中尾さんは4月12日の事件は「利用者が自分で斬りつけた」との見解を伝え、施設長に意見申立てをしてくれる約束をした。


4月16日、共有スペースで赤城さんがまた絡んできた。

今回は暴力はなかったが、説教じみた言葉で僕を責め立てた。

僕はすべてスマホで記録し、すぐに動画を持って本館へ行ったが、職員からは施設長不在で預かれないと言われ、YouTubeに限定公開で動画を保管し関係者にURLを送った。


4月25日、僕と中尾さん、施設長、赤城さん、赤城さんのケアマネジャー古田さん、施設の上層部が集まり話し合いが開かれた。

古田さんが施設の職員でもあることに驚いた。

話し合いは「赤城さんの暴力」ではなく「共有スペースの使い方」にすり替えられた。

僕が動画を提示すると「盗撮だ」と被害者面され、動画削除を求められたが、僕は「何かあれば遺族が使う」と断固拒否した。

結局、共有スペースは開放されたが、空気は「赤城さんには何を言っても無駄」という諦めだった。


施設長からは、「赤城さんに何かあったら応戦せず本館に電話せよ」と言われたが、実際は電話がなかなか繋がらず、対応は後手に回っていた。


4月19日から25日にかけても赤城さんは共有スペースを徘徊し、僕に向けられる視線は冷たかった。

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