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虐げられた聖女は精霊王国で溺愛される~追放されたら、剣聖と大魔導師がついてきた~  作者: 星名柚花


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07:新しい人生の第一歩

「婚約破棄された挙句、冤罪を着せられて国外追放されたのはショックだったと思うけど。でも、ショックなんて受けなくていい。あんな不誠実極まりない男と結婚したって不幸になるのは目に見えていた。だから、これで良かった、結婚前に本性を現してくれて良かったと、前向きに考えてほしい。あいつのために流す涙のほうがもったいない」

 フィルディス様は私の右手を握る手に力を込めた。


「『最高の復讐は幸せになることだ』と何かの本で読んだことがある。おれも同意見だ。宝石を捨ててクズ石を選んだ見る目のない馬鹿のことなんてすっかり忘れて、リーリエには幸せになってほしい。これからはおれが傍にいる。辛いときや悲しいときはおれが支える。いつだっておれはリーリエの味方だし、力になりたいと思ってる」

 フィルディス様の眼差しは、言葉は、どこまでも真摯で。


「……ありがとうございます」

 私の目に涙を浮かばせた。


「フィルディス様の仰る通りです。流す涙のほうがもったいないですね。私はもう二度とレニール様のために泣きません。思うことすら拒否します。記憶から存在ごと抹消します」

「ああ。それがいい」

 目元を擦って笑うと、フィルディス様も笑い返してくれた。

 繋いだ手から彼の体温が伝わってくる。


 ――ああ、私はなんて幸せ者なんだろう。

 言葉を尽くして励ましてくれる人がいる。

 私のために謁見の間に乗り込み、国王に抗議してくれた人がいる。

 国外追放を言い渡されたときは絶望感でいっぱいになったけれど、絶望する必要なんてない。

 どこまでも味方でいてくれる、かけがえのない人が二人もいるのだから。


 幸せを噛みしめていたそのとき、視界の端が光った。

 繋いだ手を離してそちらを見る。

 光り輝く魔法陣と共にエミリオ様が現れた。


「あれ? どこ行っ……ああ、いたいた」

 辺りを見回してから、エミリオ様はすぐに私たちを見つけて近づいてきた。

 彼の背中にはリュックがある。

 あれは魔法道具の一種、通称『何でも入る袋』だ。

 両手で持てる大きさ・重量のものであれば制限なく、いくらでも収納できる。


 非常に便利な反面、目玉が飛び出るほど高いはずだけど、さすがは元・《護国の大魔導師》。高価な魔法道具でも買えるほどの財力があるらしい。


「お帰りなさい」

 言いながら、エミリオ様に歩み寄る。


「ただいま。ちゃんとフィルの剣も持ってきたよ。剣のない剣士なんて、歌えないカナリアみたいなものだからね。いや、歌えなくてもカナリアは可愛いけど」

 エミリオ様は背負っていたリュックを足元に置き、リュックを開いた。

 虹色の靄に包まれた開口部分に手を突っ込み、エミリオ様が取り出したのは鞘に包まれた剣と剣帯。


 剣帯はともかく、剣は絶対に入るサイズではない。

 それがリュックから出てくるのだから、なんとも不思議な光景だった。


「ありがとう。やっぱり剣がないと落ち着かなくて」

 嬉しそうに剣を受け取り、フィルディス様は早速腰に剣帯をつけ始めた。


「それで、リーリエ。どこに行きたいかは決まった?」

 リュックを背負い直し、エミリオ様は軽い口調で尋ねてきた。


「…………」

 口を開こうとして、閉じる。

 本当に私の行きたいところについてきてくれるんですか?――という確認は必要ない。

 私を見つめるエメラルドグリーンの瞳が、そう言っている。


 ――本当に、なんて優しい方たちなのだろう。

 お礼をしたくても、私は何も持っていない。

 所持品は服とハンカチくらいなもので、無一文だ。

 でも、いつか絶対に恩返しすると心に誓った。

 

「はい。イリスフレーナに行きたいです」

「ああ、やっぱり海を越えることになったか」

 エミリオ様は小さく笑った。私の返答は予想通りだったらしい。


「フィルディス様から聞きました。私のために色々と調べてくださり、本当にありがとうございます」

「どういたしまして。じゃあ行こうか。あ、先に言っとくけど今日はもう魔法は使わないから。さすがに疲れたし。魔法で簡単にイリスフレーナまで飛んでいくと思ったら大間違いだよ」

「はい、わかりました」

 くすりと笑い、エミリオ様に続いて歩き出す。

 フィルディス様は私の隣を歩いてくれている。

 腰に剣を下げたその姿は、まるで主に付き従う騎士のよう。


 ――この二人がいれば、何があろうと怖くない。


 見上げた春の空は青く澄み渡り、風は穏やか。

 今日、ここからが、私の新しい人生の第一歩だ。

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