48:謝罪合戦
「やあ、君がぼくの身体を乗っ取ってくれた精霊か。ようやく会えて嬉しいよ。魔法の使い方をフィルに尋ねたんだってね。実際に使ってあげようか。火あぶり、水攻め、どっちがいい? それとも派手に爆死とかのほうがいいかな?」
エミリオ様はニッコリ笑って人差し指を立てた。
その先に金色の光が灯る。魔法を使う準備は万端だ。
『ひえ……』
白い精霊は涙目で震えている。
見ていた精霊たちもざわつき、中には危険を察して逃げる者もいた。
「エミリオ!」
「エミリオ様!」
私とフィルディス様は示し合わせたかのように、両側からエミリオ様の肩を掴んで下がらせた。
「どうか許してあげてください! 人間と精霊との間に軋轢を生まないためにも!」
「えー、どうしようかなー」
『すみません。本当にすみません。どうかお許しください。二度と人間の身体を乗っ取ったりしないように言い聞かせますので』
私が必死でエミリオ様を説得する一方、ウィンディアは緑の髪を振り乱すようにしてペコペコ頭を下げた。
「こちらこそエミリオが脅してしまって本当にすみません」
フィルディス様もペコペコ頭を下げている。
『いえいえそんな。エミリオ様の怒りは至極真っ当です。ですがそこをなんとかお許しいただきたく』
「大丈夫です。条件次第では許すと言ってましたから。さっきのは単純に意地悪しただけです、大人げなくて本当にすみません」
ひたすら謝罪を繰り返す二人。
「互いに迷惑をかけ合った幼児の保護者の謝罪合戦みたいだねー」
「誰のせいだよ!」
呑気なことを言うエミリオ様の肩を、フィルディス様が振り向きざまにべしっと叩いた。
『あの。エミリオ様。条件次第で許すというお話は本当ですか?』
胸の前で手を組み、恐る恐るといった口調でウィンディアが尋ねた。
「うん。白精霊を抹消されたくないなら、ぼくと契約して」
「えっ?」
『えっ?』
エミリオ様の発言に、その場にいた全員が驚いた。
「だ、大精霊と契約を? 本気なのですか?」
アンネッタ様は目を白黒させている。
「はい。ぼくもいい加減、この邪魔な眼鏡を外したいんですよ。でも、『精霊眼』無しで精霊を見るためには大精霊と契約する必要がある。どうせならこの国で最強の精霊と契約したいではないですか」
エミリオ様は『精霊眼』を摘まんでいた手を下ろし、アンネッタ様からウィンディアへと視線を移した。
「だからぼくと契約してよ。そしたら白精霊がやったことは水に流してあげる。リーリエを殺そうとしたことも、ぼくを操ったことも、全部綺麗さっぱり忘れてあげるよ」
エミリオ様は再び極上の笑顔を浮かべた。
『え、ええと……精霊と人間が契約するには真名を明かす必要がありまして……そのためには相手を信頼する必要がありましてですね……現時点でエミリオ様を信頼するのは少しばかり難しいと言いますか……』
笑顔のまま放たれる気迫に押されたのか、ウィンディアが後ずさる。
アンネッタ様は何か言いたそうな顔をしているけれど、エミリオ様が完全な被害者であるためか、強く出られないようだ。




