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虐げられた聖女は精霊王国で溺愛される~追放されたら、剣聖と大魔導師がついてきた~  作者: 星名柚花


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43/55

43:雨が降る午後にやって来たのは

 午前中から降り始めた雨は、まだ止む気配を見せない。

 灰色の雲は空を覆い尽くし、雨粒が静かに窓を叩く。

 雨はまるで誰かの流す涙のように、絶え間なく降り続いていた。


「リーリエ様ー!!」

 アイスブルーの瞳に涙を浮かべたアンネッタ様が『白の宮』のサロンに突撃してきたのは、ちょうど侍女たちがお茶会の準備を終えたときだった。


 本来であれば、私たちはこの時間帯に三人で《聖域》に赴く予定だった。

 でも、雨も降ってきたし、予定を延期して事件について話し合おうという流れになったのだ。


「アンネッタ様?」

 予期せぬ来訪者に驚いて立ち上がり、受け止めるべく両手を広げる。

 アンネッタ様は走る勢いそのまま私に抱きついた。

 危うくひっくり返りそうになったけれど、フィルディス様が右手を伸ばして私の腰を支えてくれた。

 かなりの負荷がかかったはずなのに、片手一本で難なく支えられるのだから、さすがだと密かに感心した。


「ご無事で良かったですわ!! リーリエ様が昨夜侍女に襲撃されたと聞いて、わたくし本当に、胸が潰れるかと思いましたのよ!!」

「ご心配をおかけして申し訳ありません。ですがこの通り、大丈夫です」

 無事を示すために両手を振ってみせたけれど、アンネッタ様の怒りは収まらなかった。


「フィルディス様!! あなたリーリエ様の危機に何をやっていたのですか!! お父さまがあなたに剣を与えたのはこういった非常時にリーリエ様を守るためでしょう!!」

「面目次第もございません」

 アンネッタ様に睨まれたフィルディス様は頭を下げた。

 その拍子にずれたらしく、フィルディス様は人差し指で『精霊眼』を押し上げて位置を整えた。


『そんなの仕方ないじゃん!』

『そうだよー、フィルディスはそのときリーリエの傍にいなかったんだからさー』

『王様がリーリエと同じ宮殿に泊まっちゃダメって言ったんでしょー?』

 フィルディス様の周りにいる精霊たちがアンネッタ様に抗議している。


「アンネッタ様、フィルディス様を責めるのはおやめください。フィルディス様と私は住居が違うのです。いくらフィルディス様が剣の達人であっても、物理的に離れていては守りようがありません――」

「その件についてだが」

 アンネッタ様を宥めていると、今度はルーク様がサロンに入ってきた。


「ルーク様」

 王太子の登場にフィルディス様とエミリオ様が立ち上がる。

「いい。そのままで」

 壁際に控えている侍女たちの間にも緊張が走ったが、ルーク様は片手を上げて挨拶を制した。

 ルーク様が一瞥すると、ルーク様についてきていた近衛騎士は速やかに下がった。

 壁際にいた侍女たちも心得たかのように一礼してサロンを出て行く。


「悪いが君たちも出て行ってくれ」

『えー、なんでー?』

『ダメだよ、ルークは王子様なんだから聞かなきゃダメー』

『おうぼうだー!』

『りふじんだー!』

 精霊たちはガヤガヤ騒ぎながら飛び去った。

 これで、サロンにいるのは私たち五人だけとなった。


「王宮は今回の事態を重く受け止め、フィルディスにはリーリエの隣室に引っ越してもらうことにした。王女の命を救い、悪魔王の封印を成し遂げた大聖女が命の危険に晒されたとあっては、王の沽券に関わる問題だからな。フィルディス。真夜中から午前六時の鐘が鳴る間に三階に立ち入った者はたとえ侍女であろうと斬って良い。私の命を聞かぬ者は全て敵だと思え」

 ルーク様は上に立つ者に相応しく、威厳のある声音で告げた。


「承知しました。ですが、なるべく斬らずに無力化するよう務めます」 

「おや、フィルディスは愛する恋人に害を成そうとする者を斬らないつもりか。斬らずに無力化するほうがよほど難しいだろうに」

 冷酷な態度から一転、ルーク様はからかうように笑った。


「実力が拮抗する騎士相手では難しいでしょうが、相手が侍女ならばたとえ複数だろうと遅れは取りませんよ。顔なじみを傷つけたらリーリエが悲しみます。おれはリーリエの泣き顔よりも笑顔を見ていたいので」

「王太子の前で堂々と惚気るなよ……」

 エミリオ様が呆れ顔で言う。

 それから私たちはルーク様とアンネッタ様の分のティーカップを追加し、五人でテーブルを囲んだ。


「昨夜は大変だったな、リーリエ。君が無事で本当に良かった」

 紅茶を一口飲んでから、ルーク様はティーカップをソーサーに置いた。


「エミリオ様にいただいた魔法スクロールのおかげです。あれがなければどうなっていたことか……」

 皮膚を切り裂かれた痛みを思い出し、私は首筋に手を当てた。

 そこにあった怪我はもうない。自分自身で治した。

 隣に座るフィルディス様が心配そうな顔をしたため手を下ろす。

 しっかりしろ、と気合を入れ直し、私はルーク様を見つめて問うた。


「マーサの主張は変わりないのですか?」

「ああ。何も覚えていないの一点張りだ。リーリエの言葉を信じるならば、精霊を介して何者かに操られていたと考えるべきだろうが……しかし、大聖女を暗殺しようとしておいてお咎めなしというわけにはいかない。事件の黒幕が判明するまでは拘束しておく。騎士団とも話をつけ、見回りと警備の数を増やすことにした。これが吉と出るか凶と出るかはわからないがな」

「リーリエ様を守るべき兵士たちが、逆に敵に操られたら大変ですわよね……一体誰の仕業なのでしょう。犯人の動機が全くわかりませんわ。リーリエ様とフィルディス様に危険を知らせた何者かの正体も気になります。恐らくは精霊なのでしょうが、その精霊とは一体……?」

 アンネッタ様は独り言のように呟いた。

 私が誰かに起きろと言われたように、フィルディス様もまた、誰かに私の危機を知らされて駆け付けたのだという。

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