第3話 イタズラ好きの能登兄妹 ~現実世界編~
俺はリビングに足を踏み入れると同時、文字通り固まった。
それはそのはず、日本人形を胸に抱きながら、独り言をつぶやく穂乃香の姿があったからだ。
俺は恐る恐ると、穂乃香に声をかけた。
「おい、穂乃香……?」
次の瞬間、穂乃香は閉口、それでリビングは静寂に包まれる。
俺は穂乃香を正気に戻すべく、彼女の名を叫んだ。
「穂乃香たんっ!」
するとどうだろうか、穂乃香の目に色が戻った。
「ゆず兄……? あれ、なんでアタシ……って、何この日本人形、こわっ」
そう声を震わせながら叫んだ穂乃香は、不気味な日本人形をリビングのゴミ箱にシュート。
「あぁ! いかにも怪しそうなネット通販で買って、こっそり穂乃香の部屋の隅に置いておいた由夏子ちゃんが!?」
「あんたの私物かいなっ。っていうか、そんなイタズラのような真似、しないで!?」
ゴミ箱からはみ出た日本人形の由夏子ちゃんは、恨めしそうな目でこちらをにらんでいた。
おお、こわっ。
「とまあ、由夏子ちゃんのことは忘れろ」
「忘れないわよ……? 実の兄から受けた嫌がらせは、永遠に忘れない」
「そんなこと言わずに、忘れておくれ、妹よ」
「無理。由夏子ちゃんとともに、アタシはあんたを呪う」
ハッとゴミ箱に目を向けると、そこには先ほどよりも髪が何センチも伸びた呪いの日本人形、由夏子ちゃんの姿が。
「ヒエッ、どうかご勘弁を」
「ふふふ」
「クスクス」
なんだか穂乃香以外の笑い声が聞こえたような気がするが……まあいい。
俺は冷蔵庫を開けると、中から飲みかけのペットボトルコーラを取り出した。
喉が渇いていた俺は、キャップを開けるなり、ゴクゴクと飲み――すぐに噴き出す。
穂乃香は「何!?」と悲鳴を上げ、俺の元に駆け寄る。
吐きそうになっている俺は、しばらく声が出せなかった。
「ゆず兄ったら、どうしたの?」
キャップを閉めたペットボトルを流し台に投げてから、俺は穂乃香に説明した。
「コーラに……醤油、が混ぜられている件について」
「醤油ですって?」
俺は忌々しげに醤油入りのコーラを一瞥した。
「そうさ、あの中に醤油がたっぷり入ってるんだ」
「……そういえば」
「なんだ、穂乃香よ。まさか、この事件の犯人を知っているのか!?」
「犯人は」
「犯人は……?」
「ア・タ・シっ♡」
腰に手を当て、うふん、と妖しく笑う穂乃香。
俺は衝撃を受け、膝から崩れ落ちた。
「な、なんと」
「ねえ、今どんな気持ち? どんな気持ち?」
煽ってくる穂乃香。
俺は弱々しくほほ笑むと、「やられた。ああ、参ったよ。降参だ」と両手を万歳した。
「さすがは俺の妹だ。賞賛に値するぜ」
「ふふん、ざまあみなさい」
上機嫌にクルリと一回転する穂乃香。
俺は未開封のコーラを冷蔵庫から取り出し、今度こそコーラをゴクゴクと飲んでから、自分の部屋に引っ込んだ。




