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日影血戦  作者: 最上優矢
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第0話 バイオハザード発生 ~ゲーム世界編~

 二〇二五年十一月十一日、午後二時過ぎ。

 日影(ひかげ)高校、三階廊下。


 その日、私――安室令奈(あむろれいな)日影(ひかげ)高校の文化祭で……。


「〈安室令奈(あむろれいな)〉失礼、眠くてぶつかってしまったわ」

「〈不穏な女子生徒〉痛い……ねえあんた、人にぶつかってきておいて、なんも謝らない気?」


「〈安室令奈(あむろれいな)〉ごめんなさい。ケガ、してない?」

「〈不穏な女子生徒〉全治一ヵ月のケガかも、これ。ケガの具合、お手洗いで見てほしいから……付いてきて」


「〈安室令奈(あむろれいな)〉今の、ナイフ……それで何する気?」

「〈不穏な女子生徒〉ん~、さあ……?」


 ナイフを隠し持った女子生徒に因縁をつけられ、挙句の果てに脅される……そんな唐突のピンチを迎えていた。


 元々、私は人に助けを求めることはしない主義だ。

 今までのように、今回も一人で切り抜けてみせる。


 さて……どうしたものか(泣)

 誰か助けてください、お願いします(涙)


 私は廊下を行き交う人たちに「助けて」と目だけで伝えるが、彼らの目に私は映らない。

 文化祭という行事を楽しむことに夢中のようだった。


「〈安室令奈(あむろれいな)〉薄情者ね」

「〈不穏な女子生徒〉なんとでも言いな」


 黙れ腐れ外道、あなたにじゃない。というか、あなたには言いたいことが山ほどある。

 眠さで彼女を攻撃できたら、どんなにいいことか。


 …………。

 ぐう……スヤァ。


「〈不穏な女子生徒〉歩いたまま、寝ないでくれる?」

「〈安室令奈(あむろれいな)〉寝てなんかないわよ、失礼な」

「〈不穏な女子生徒〉これから殺されるのに、呑気ね」


 ケケケ、と彼女は正気とは無縁の笑い声を上げた。

 これはまずい、とさすがの呑気な私も危機感を覚えた。

 しかし、ちょうど私と彼女は校舎三階のトイレ内へ。


 オワタ。


 背後には不穏な女子生徒。

 正面には個室のトイレ……いや待てよ、個室だって?

 そうだ、個室に逃げれば、中から鍵がかけられる!


 反射的に私は彼女から距離を取った瞬間、

「〈不穏な女子生徒〉ゴフッ、オエェ……ゲエェ!」

 彼女が悪臭漂う吐しゃ物を、床一面に撒き散らした。


 ついに彼女は凶器のナイフをトイレの床に落とし、あっという間にナイフは際限なく流れ続ける吐しゃ物の中に埋もれていった。


「〈安室令奈(あむろれいな)〉ちょっと……ねえ、大丈夫!?」

「〈不穏な女子生徒〉ゲエェ、ゲェェ……ゲェェ!」


 見たことのない緑色の吐しゃ物。

 それは洪水のように彼女の口から流れ続けていた。


「〈安室令奈(あむろれいな)〉何よ……これ」


 恐怖よりも悪臭から逃れるため、私は一歩ずつ後退る。

 吐しゃ物を出し尽くしたのか、彼女はうな垂れていた。

 そう、白目をむいたまま……うめき声を上げながら。


 そして今、そのうめき声が止んだ。


「〈安室令奈(あむろれいな)〉…………」

「〈不穏な女子生徒?〉…………」


 彼女の意識がないことを願いながら。

 小さな声で……私は独り言のようにつぶやいた。

 ねえ、と。


 それがいけなかった。


「〈???〉キシャアァ!!」


 彼女ではない何か別の怪物は――歯をむき出しにして奇声を上げながら、おぼつかない足取りでこちらにゆっくりと近づいてくる。


 その瞬間、私の心臓が暴れ出し、恐怖ゆえに顔は強張る。

 私は……死期を悟った。


 そのときだ。

 私の中に隠れ潜んでいた“何か”は、死を拒否し、暴走。


 暴走した“それ”は怪物をにらみ、私の声を借りて――。

「やめて!!」

 そう憤然と叫んだ。


 叫び声を上げると同時に、私の中の“何か”は、私自身さえも巻き込む“奇妙な爆発”を引き起こした。


 私を含む怪物や壁など、爆発による衝撃で吹き飛んだ。

 そう、私は壁という硬すぎるクッションを失い、三階という高さから外に勢いよく吹き飛ばされたのだ。


 宙を舞う私は爆発現場を見ることなく、猛スピードで硬い何かに激突してめりこみ、あまりの激痛でしばらく身動きや目を開けることもできず、まぶたを固く閉じていた。


 ようやく身動きができるようになり、まぶたを開けたとき――体育館の屋根にめりこんでいた私は、この世の地獄ともいえる光景を目の当たりにした。


 夕闇の中、燃え盛る校舎や模擬店を覆い隠すのは、周囲に立ちこめる黒煙。

 ……それだけではない。


 黒煙で視界の悪い体育館から見渡せるもの……それは元人間だったおびただしい数の怪物に加え、大勢の怪物に追われて逃げ場を失い、捕食される人間たち。


 そんな地獄には想像を絶するBGMが付き物。


 人間を追っては捕食する怪物たちのうめき声や奇声や咀嚼音、そんな怪物たちに蹂躙される生存者の悲鳴や叫声や絶叫。


「〈安室令奈(あむろれいな)〉あぇ、あぁ、あぁ……っ!」


 私は声にならない悲鳴を上げ、すぐに煙でむせた。


 いっそ、体育館の屋根に衝突したときに死んでいたら良かったのに、と今この瞬間に生きていることを心から呪った。


 そうだ、あのとき――“奇妙な爆発”が起こる瞬間、時空が勾玉のようにC字形や左右反転のC字形に歪んだことを思い出す。


 あの爆発の感覚――それは文化祭の成功を気にし、三日間まともに寝ていない私の“眠さを爆発に変換”したような……そんな体験済みの奇妙な爆発の感覚だった。


 まさか、と私は煙で染みる目を無理にでも見開き、なるべく遠くにいる怪物をターゲットに狙い、心の中で小規模の爆発を念じてみた。


 すると、その怪物を中心にし、例の時空が歪む爆発が起こり、ターゲットに狙った怪物は木っ端みじんになった。

 周囲にいた怪物は巻き添えを食らい、遠くに吹き飛ぶ。


「〈安室令奈(あむろれいな)〉何よ、それ。この地獄の中、たった一人で生き残れってことなの……!?」


 私が怒りや憎しみの怒声を上げると、はるか上空のほうで――大爆発が起こった。

 それはまるで花火のようで、爆風の威力も相当。


 すぐさま襲ってきた耳鳴りとともに、私はありったけの希望と絶望を込めた大声で……誓いの言葉を叫んだ。


「〈安室令奈(あむろれいな)〉ええ、誓うわよ! この地獄のような世界で、たった一人でも生き残ってやるんだから……!」


 そのあと、私は爆発を何度も起こすことにより、爆風のトランポリンを形成し、体育館屋根から怪物が少ない地上のエリアに手荒く墜落した。


 たくさんのケガを負いながらも、地上に下りてからの私は死闘の連続だった。


 襲いかかってくる怪物を相手に、私は眠爆(みんばく)(眠さを爆発に変換する能力を、私はそのように呼称した)を駆使して戦った。


 少人数の生存者がバリケードで立て籠もっている売店では、私は感情を押し殺して、数少ない生存者を眠爆で爆殺し、そこを拠点とした。


 そうして得た売店の食料品で、私は命をつないだ。

 食べ物や飲み物を口にしたあとは、必ず私は時間をかけて、怪物どもをデザート代わりに爆殺した。


 この地獄で生き残るには感情を押し殺して、生存者殺しや怪物狩りに興じなければ、逆に殺られることを、とうに私は誰に言われるでもなく理解していた。


 やっとのことで日影高校の敷地内から脱出することに成功した満身創痍の私は、これまでに受けたケガの痛みや炎症や精神ダメージで、ついに動けなくなってしまった。


 私は二度目の死を覚悟したが、食料品などを探しに来た日影町の自警団に見つかって保護され、どうにか命拾いした。


 自警団に保護されてからも、私は睡眠を取らないよう、朝も昼も夜も起き続けた。

 寝れば眠爆の威力が弱まり、死を意味するからだ。


 ケガが治ってからも、私は最前線で戦い、守り続けた。

 攻防では自警団の仲間が怪物に食い殺され、奴らと同じ怪物になるところを何度も目撃した。


 そんなある日、私は怪物に腕を噛まれた。

 私はすぐに手当てを受けたが、どうせ助からないと諦め、それからの自警団ではしんがりを務めた。


 しかしどういうわけか、私は何日経っても、怪物にはならなかった。

 そのときにホッと安堵したのが、いけなかった。


 その瞬間、私は意識を失い、半年ぶりの眠りについた。

 巨大ビルさえも倒壊できるような威力の眠爆を持つことができたのに、私は寝てしまった。


 眠りにつく直前、突如として観測された「タワー」と呼ばれる複数の建造物から、怪物が無数に湧いている、という情報を知ったにも関わらず……私は眠ってしまった。


 ハッと目が覚めたとき――私は暗い場所のベッドのようなところで横になっていた。


 半端に眠くて、思わず「眠いわ」とつぶやこうとしたが、それは声にならず、空気となって通り過ぎた。

 酷く嫌な予感がした。


 私は「眠爆は使えるかしら」と声に出そうとしたが、それも声になることはなく、愕然とした。

 長く眠っていた影響だろう、と私は結論付けた。


 それよりも、今は部屋の匂いが気になっていた。

 嗅いだことのない匂いだったが、なぜだか無性に懐かしい匂い。


 単純なことにも、それで安心した私は一瞬でまどろみ、心地よい二度寝に入るのだった……。



 ――「日影血戦」第1話に続く

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