パスワードを捧げよ
「何だ、これ?」
「どうした?」
声に振り向くと、彼が解析していた古代の遺物が何やら光っていた。
「おっ、動いたのか、それ」
「ああ、動いた。動いたんだが……何だこれ?」
彼の目の前にある板に、見慣れない模様が浮き出ている。
「模様?いや、これ文字じゃないか?」
「古代文字?そんなの読めないよ」
「ちょっと待て。確か、言語解析班から報告が上がってきていたはずだ」
山積みになっている書類の中から、件の報告書を引っ張り出す。パラパラと中身を確認すると、意味を推定できた古代語の一覧表が出てきた。
「えーっと、これによると……どうやら、何かを入力すればいいみたいだな」
「なるほど、入力か。で、何を入力すればいいんだ?」
「分からない」
彼が呆れた顔で私を見てくるが、一体どうしろというのか。
「”入力しろ”と指示していることは分かるが、その後の言葉がまだ解析されていないんだ」
「じゃあ、これでお手上げか……」
彼が悔しそうに板を睨みつけた。諦めるしかないのかもしれないが、ここで諦めるのはあまりに惜しい。たった一言意味が分かれば、先へ進めるのに。
往生際悪く一覧表を眺めていると、あることに気がついた。
「おい、どうにかなるかもしれないぞ」
メモ紙に古代文字を書き写して、その中央に線を引いた。
「ここで分けると、前半と後半で解析は済んでいるようだ。あとはそれをくっつけると」
「意味が分かる」
二人して、手元のメモと報告書を覗き込んだ。
「前半部分は……おっとこれだな。”通り過ぎる”」
「後半部分は……これか。”言葉”」
彼と見合って首をひねった。
「”通り過ぎる言葉”って何だ?」
「うーん、さっぱり分からない。もしかしたら解釈が違っているのかもしれないぞ」
彼が頭を掻きむしりながらメモをじっと眺めている。
「”行き過ぎた言葉”っていうのはどうだ?」
「”行き過ぎた言葉”?まるで神への祈りみたいだな」
「祈り……祈りの言葉か……」
言いつつも、彼は納得していないようだ。私もどうもしっくりこない。
「”通り過ぎる”っていうことは、過去だよな?」
「過去?じゃあ、死者への祈りか?」
駄目だ、分からない。
「もういっそ、この謎の言葉をそのまま入力してみるか」
半ばやけっぱちになった彼が、古代語をそのまま入力する。すると、途端に模様が変化した。
「動いたな」
「ああ、動いた」
「結局、何だったんだ?」
「さあ?古代人ってのはよっぽど信心深いんだろうよ」