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第4話 生きている理由

第4話 生きている理由

 

――もう3年前の話だ。

 私はその日、泣きながら走っていた。

 走る行く末も。

 目的も理由も何もかも私には存在していなかったが。

 先程、大好きだった母さんが病気でこの世を去った。

 私は生きてていい理由。

 私が生きていくための価値。

 それを失った。

 私には、何も残されていない。

 私の引き取り先も見つかぬまま、連絡をとりあってくれた市役所の職員さんや。

 全ての人達が、私は今後どうなるんだろうってまるで他人事だ。

 いるべき場所がないのなら。

 必要としてくれる人がいないのなら。

 私もこの世界から消えよう――

 気づいたら、私は地下鉄のホームにいた。

 消えてなくなるために。

 聞きなれたアナウンスが鳴り響く。「電車が来ます、白線の内側までお下がりください」と。

 誰に対して言っているのだろうか。

 私に対してだろうか。

 でも、私は必要されたその「誰か」には該当しない。

 関係ないんだ。

 アナウンスを無視して。

 白線を跨いだ。

 ちょっとずつ、ちょっとずつ線路の近くへと歩みを進める。

 生きてたってもう意味はない。

 意味を失ってしまったんだから。

 一歩、一歩、線路へと――

 電車が視界へと入ってくるのが見える。

 こちらへと近づいてくる。

 大きな音と共に――

 もうすぐ私は楽になれる。

 この世界から消えて。

 誰からも愛されない世界から。

 誰もいない愛される必要のない世界へと行ける。


――あっちの世界へ行けば、またお母さんは愛してくれるかな――


 未来は駅のホームから、電車が通過するタイミングで身を投げ出し。

 線路へと飛び込んだ。

――その時。

 何も考えられないな。

 死ぬのって意外と怖くないんだ。

 さよなら。

 愛のないこの世界。

 だが――

 一瞬だった。

 その一瞬が。

 どうやら私にとって奇跡の出会いとなってしまったんだ。

 それは奇跡のように美しく。

 真剣な表情のその女性が。

 飛び込んだはずの私の腕をしっかりと掴んでいて。

 私は顔を見る。

 その女性の顔を。

 ショートカットの綺麗な女性。

 怒っているように見える。

 その顔に。

 不謹慎ながらなぜか自分は安心してしまう。

 この人は私を心配してくれているのだろうか。

 掴まれた腕は、その女性にしっかりと引き付けられ。

 そして。

 その身ごと、駅のホームで抱きしめられる。

 頭をその子に、撫でられる。

 柔らかな指の感触が伝わってくる。

 と、その子はすぐに。

 私の顔を引っぱたいて。

「何があったの?」

 強く叩いた手とは裏腹に。

 優しげな声が耳元で囁いた。

 私は素直に嬉しかった。

 全くの赤の他人の人が。

 こんなにも真剣な顔で自分を心配してくれている様子に。

 言葉で簡単に説明するなんて無理だ。

 今の私の気持ちを。

 積もり積もった悲しい気持ちを。

「私……居場所がないんです……居場所が欲しい」

「居場所?」

「生きている理由が……もう無いんです……」

「そっか……」

 やりとりはそれで終わる。

 自分もここではそれ以上口にしなかったし。相手もそれ以上聞いてこなかった。

 でもなんとなくわかる。

 この人には私の状況が大方伝わっていることに。

 その女性は私を抱きしめながら。

 暖かな温もりを感じるその体を寄せ合いながら。

「私があなたに生きている理由作ってあげるんだから……だから、まだ死んじゃだめだよ……」

 涙がこぼれてくる。

 お母さんがこの世を去った時とは別の感情。

 何かを失った感情ではなく。

 これは、どちらかといえば嬉しい感情だ。

 私は虚ろな声で。

「ありがとう……お姉さん名前は……?」

「新堂加来。あなたは?」

「私は、霧島未来。東強中学の霧島未来です――」

 こうしてこの日二人は出会うのであった――

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