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第3話 流し打ち

 第3話 流し打ち


 4番新堂加来の2ランホームランで、神成学園の2点リードとなった初回。

 続く5番は凡退し、3アウトチェンジでベンチに戻っていく東強学院の選手達。

 未来がベンチに戻ると、女監督が未来と舞を呼び出し言う。

「2人とも、あの4番打者とはもう勝負はするな。今後ピンチの場面で回ってきたら全部歩かせていい」

「ストライクを投げるなという事ですか?」

「そうだ」

 未来が尋ねると監督は頷く。

 いやだ。

 逃げたくない。

 私たちは実力でここまで勝ち上がってきたのだ。

 それに告白の件もある。

 先輩と真っ向から挑んで、それで白黒ハッキリつけたいんだ。

「監督……それは、絶対にしなければならない事でしょうか?」

「勝つために必要なことよ」

「……」

「不満そうな顔ね。ピッチャーの舞が不満ならわかるけど、司令塔のあなたが冷静さを欠いてしまったら、この試合負けるわよ。厳しいコースで勝負しようとかも考えてはダメ」

 未来は、まだ何か言いたそうな顔付きで。

「わかりました……」

 そこで、舞が声をかけてくる。

「私は問題ない。勝つためなら未来。加来先輩は徹底的に歩かせていこう」

「……」

――その後、2回、3回と共に三者凡退のイニングが続き。

 4回表。

 2アウトランナーなしで未来に打順が回ってきた。

 未来はネクストバッターサークルからゆっくりとバッターボックスへと向かう。

「3番キャッチャー霧島未来さん」

 ウグイス嬢の声。

(さっきの打席は、内角の球を引っ張って先輩がいるサードに打ってしまった。あの方向はダメ。引っ張ると先輩の網にかかってしまう。狙うならその逆方向――)

 そう考えながら、一塁線に視線を移す。

(逆方向に打つのなら外角の球を流し打ちするのが理想。外角の球がくるとしたら、一度内角に見せ球を使ってくるその後のはず――)

 逆算し、狙い球がくるタイミングを予想する。

 そう考えていると。

 サードの加来が大きな声で。

「未来、考えすぎ!」

「……」

 考えすぎと言われても。

 それは自分の良さでもある。

 チームの司令塔――キャッチャーを務めているのはその考える能力の高さも評価されての事。

 そのことについては以前にも、加来に褒められたことがある。

 私は考えて野球をやるタイプで。

 私に野球を教えてくれた先輩はまるで考えてなくて。

 言うならば頭脳派と天才派。

 私は先輩のような天才型ではない。

 頭脳で野球をやる私が才能あふれる先輩に勝つことは難しいかもしれないけど。

 私が思う気持ちは、先輩には負けたくない。

 どっちが上か下かで諦めたりしたくない。

 そして未来の第2打席。

(内角に球がくるまでボールを待つ)

 1球目。

 真ん中低めのストレートが外れ、1ボール。

 2球目。

 やや外目のスライダーが決まり、1ストライク1ボール。

(ちっ……前もって読んで打っていたら今のは打てたかもしれない。でも内角まで球がくるまで待つのよ)

 3球目。

(きた……)

 内角で体に近い際どいコースを見送り。

「ストライク」

(これで2ストライク1ボール。今の球で残像が残ったはずだから、外のコースにボールは投げやすくなった、これで次の球は――)

 とそこで加来が再び大きな声で。

「バッター、外角狙ってるよー」

 未来の狙いが読まれてしまう。

 これまで一度も未来はバットを振っていない。

 ただ一度の読みで外角の球を狙っていたのだが。

(何故わかったの? 直観? そうとしか考えられない。それでも、あっちは裏をかいてくる。今の声で逆に外角の球がくる可能性が高まったはず。願ったり叶ったりよ――)

 4球目。

 未来の読みの通り、キャッチャーの要求はやはり外角のコース。

 ボールが投じられる。

 未来はバットを振りだす。

(きたっ狙い通り……)

 外角低めのいいコースにストレートがくるが。

 それを未来は体を開かずバットのヘッドを遅らせ、見事に流し打ちする――

(流し打ちは先輩に教えてもらった打ち方――)


――『踏み込みは大きく、体を開かないで、ヘッドを遅らせバットを出すの』――

 

 加来の声を思い出す。

 中学時代加来から教わった打ち方をここで実践する。

 ボールはジャストミート。

 鋭い金属音。

 狙い通り一塁線へ打球が襲う。

「ファーストっ!」

 一塁手は懸命にグラブを出すが捕れず。

 打球はライト線への長打コース。

 未来は一塁を蹴り二塁へ、そしてベースに到達。

 打球はようやく内野に返ってくる。

 舞が大きな声で。

「ナイスツーベース!」

 二塁ベース上で未来は、小さく拳を握る。

 これで2アウトランナー2塁。

「4番ピッチャー美波舞さん」

 舞が打席に入る。

 第1打席は、センターへの大きなフライだった。

 この第2打席は周囲も大きな期待を寄せていて。

 1球目。

 真ん中低めのスライダーを見事に救い上げるように打ち――

「!」

 大きな金属音。

 三遊間へ打球が飛ぶ。

 サードの加来が横跳びするも捕球することは出来ず。

「レフトぉぉぉぉ!!!!!!!」

 レフト前へ打球は転々と抜けていき、ボールを捕球。

 すぐさま中継の加来へボールを投げる。

 その間未来はサードベースを回り、ホームへ。

 中継の加来がホームへボールを力強く送球する。

 強い球がホームへと投げ入れられる。

 全力を尽くして走る未来。

 いやだ。

 負けたくない。

 勝ちたい。

 ここで1点取るんだ――

 ホームへ滑り込む。

 キャッチャーがボールを捕球し、タッチする。

 クロスプレー。

 アウトか。

 セーフか。

 一同固唾をのんで見守り審判のジャッジが。

「セーフ!!!」

 間一髪セーフのジャッジ。

 未来の足がタッチよりわずかに速かったようだ。

 これで2-1。

 東強学院が1点を返す。

「ナイスラン未来!」

 ハイタッチで未来を出迎えるチームメイト。

 未来は振り返り、加来の方を見る。

(最後の中継プレー。凄いボールだった。スタートが遅れていたら間違いなくアウトだった)

 その送る視線に加来も応えるかのように。

 ゲームを楽しむような表情で微笑み返すのであった。

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