第2話 フォークボール
第2話 フォークボール
マウンド上の舞は初回から全力で投げていた。
1番打者をショートゴロに抑え、2番打者もセカンドフライ。
3番打者がバターボックスに入る。
キャッチャーの未来はそれに納得の表情になる。
(舞の球、球威はバッチリ、コースも要求通り来ている。落ちる系の変化球を試してないからこの打者は追い込んだら使ってみよう)
1球、2球、連続ファール。
2ストライク0ボールですぐさま追い込む。
(舞は全力で投げている。遊び球を使っている暇はない。3球勝負でフォークボールで……)
未来は真ん中低めを要求する。
舞は忠実にそのコースにフォークを投げ込む。
3番打者は、ストライクからボールコースへと逃げていく球に思わずバットは空を切る。
(しめたっ!)
だが。
ボールはワンバウンドし、未来も捕球できない。
後ろにボールを逸らしてしまう。
スイングした3番打者は、すぐさま一塁へと走り一塁へ到達。
ピッチャーの舞が言う。
「ワイルドピッチしちゃったごめん……」
未来が答える。
「こっちこそごめん。今のは止められた。パスボールだから」
お互いにミスの責任をかばいあう。
未来はボールをピッチャーへ返す。
(何してるんだろう私。今のくらい止めないと……これで、ランナーがいる状況で加来先輩に回ってしまう……)
「4番サード新堂加来さん」
ウグイス嬢の声。
加来がバッターボックスに入る。
未来の視線から、加来の後ろ姿が見える。
先輩の後ろ姿は、やはりカッコよくて、美しい。
居場所のなかった私は、この先輩の後ろ姿を追いかけて今日ここまでを戦い、生きてきた。
そうして私の居場所は見つかり、ここで舞のボールを受けている。
今日は負けない。
絶対負けない。
中学の頃、一緒にずっと追いかけてきた背中はすぐそこにいる。
先輩を超えて。
先輩の愛を超えて。
私の愛をこの試合で伝えるんだ。
「2アウト1塁! 内野近いところー!」
未来が指示の声を叫ぶ。
キャッチャーである未来はこのチームの司令塔。
扇の要である。
「舞! 厳しくいこう!」
1球目。
未来は内角のストレートを要求する。
舞が振りかぶる。
マウンドの土を強く蹴り上げて。
力強く投じる。
ボールが放たれる。
軌道は要求通り加来の体付近のきわどいコースへ。
「バシンっ」
加来はその球を見送り、未来はボールを捕球する。
「ストライク!」
微動だにしない加来。球筋を見て軌道を覚えているようだ。
(よしっ! ワンストライクだ)
ボールを舞へと返し。
「ピッチャーナイスボール」
未来は大きな声で盛り上げる。
それに加来が言う。
「いいところ構えるじゃない。舞もいい球投げるし、みんないい顔してる。成長してきたね未来」
「褒めるのは終わってからにしてください。真剣勝負の最中です。先輩私、絶対負けませんから」
「私も、負けるつもりはないよ」
構える加来。
構える未来。
これは真剣勝負なんだ。
何と言おうとこの試合に負けるつもりはない。
(加来先輩は初球だけは球筋を見ていこうと考えていただけ。2球目からは容赦なく振りにくるはず……なら――)
2球目。
今度は外角のフォークボールを要求する。
(ストライクからボールに落ちるフォークで――)
舞がボールを投じる。
挟んだボールの指先から。
ボールが未来のミット目がけて。
ボールは無回転。
それを瞬時加来はフォークだと察知。
加来の体が反応する。
バットを振りに出す。
態勢をくずされながら、加来はボールへと落ちるフォークに対応し。
泳ぎながらボールを見事に捉える。
強烈な金属音。
(しまった――)
膝をついた状態で加来はそのボールを高々とレフトの遥か上空まで打ち上げ――
一同がその打球を見送る。
レフトのフェンスを越え、客席の中段席あたりに着弾する。
「2ラン……ホームラン……」
唖然とした表情で未来はその打球を見つめるのであった――