第1話 試合開始
第1話 試合開始
東京都地区県大会決勝。
グランド上に集まった選手達を制して審判が合図する。
「東強学院 対 神成学園の試合を開始します。礼っ」
選手たちは一礼し、その場でお互いのキャプテンが大声で気合を入れる。
「絶対勝つぞぉぉぉぉ!」
「おー!」
選手達の気合の声。
後攻の神成学園はグランドの守備に就く。
先攻の東強学院のベンチでは。
「加来先輩は4番サード……」
オーダー表を片手に霧島未来が言う。
スコアつけている1年生の女子部員が。
「あっちの4番の新堂加来さんは、ここまで打率5割をマークしています。バッテリーさん気を付けて」
この試合でキャッチャーを務める未来が答える。
「わかっているわ。あの加来っていう人は、私たちの中学の頃の先輩なの」
東強学院は中学と高校がエスカレータ式に進学する学校だったため、東強中学校時代に新堂加来とは馴染みがあった。
未来がバッティング手袋をハメながら言う。
「舞、今日の試合、初回から全力でいくよ。あとの事は考えなくていい」
「未来がそう言うなら、わかった。初回から飛ばしていくっ」
美波舞がそう答える。肩まで伸びる黒髪少女。1年生ながらエースで4番を務めている。
一同がグランドに視線を注ぐ。審判の「プレイボール」の合図で試合が開始される。
1番打者、2番打者があっさり凡退し、3番霧島未来が右バッターボックスに入る。
ウグイス嬢の透き通る声。
「3番キャッチャー霧島未来さん」
打席で構える未来を見て、サードを守っていた加来が大きな声で。
「未来!」
視線を加来へと移す。
「期待してるから」
(先輩……私……負けないから)
闘志を抑えた眼差しで、その視線をピッチャーへと移す。
対決が始まる。
1球目。
外角に外れたスライダーを見送る。1ボール。
2球目。
内角ぎりぎりのストレートを見送る。1ストライク1ボール。
3球目。
外角低めのストレートを思いっきり振りにいくが、ファールボール。
これで2ストライク、1ボール。
(追い込まれた……)
加来が再び声をかける。
「バッター! 泳いでるわよ」
敵なのに、タイミングが速いとアドバイスをしてくる。
(わかってる……でも、ここは冷静に……)
構えてピッチャーを真剣な目で見つめる。
(ここまでコースは外角、内角、外角と来ている、次はきっと――)
狙いを決める。
ピッチャーは投球動作に入る。
振りかぶり、足を大きく上げ、強く腕を振って。
ボールが放たれる。
(狙いは内角――)
その内角のボールが来る。
ストレートである。
未来は瞬時に体を反応させ、少し体を開き、やや窮屈に腕をたたんで、思いっきりボールを叩く。
「!」
痛烈な金属音。
打球はサードの方向へ。
強い三塁線を襲う打球。
三塁手の新堂加来が体を半身にしながら、ライン上へ横跳びする。
ボールをノーバウンドで捕球し、ぐるりと体は一回転する。
それを見たチームメイト達が。
「サードナイスプレイ!」
ボールを持ったまま加来は、未来に視線をやる。
先輩と目が合う。
(今の打球、抜けていれば二塁はいけたはず……)
(惜しかったわね、未来。それにしても凄い打球だった)
1回の表、東強学院の攻撃が終了する。
未来がベンチに戻ると。
「惜しかったね。でもいい打球だった」
グラブを着けた舞が声をかける。
「やっぱり、加来先輩は凄い、あの打球を捕るんだから」
「そうね」
未来は、急いでキャッチャー防具を身に着ける。
着け終わると。
「舞、さっき言った通り初回から全力よ。内角も厳しく攻める。いい?」
「わかってる」
グランドの守備に就く。
1回裏の神成学園の攻撃が始まる。
未来はキャッチャーのポジションに就き。
(先輩は4番バッター。この回ランナーを一人も出さなければ、次の回は、先頭で打順が回ってくる。1,2,3番全員抑える――)