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2.急転直下の生贄コース

 弱冠三十歳の国王ラスティンと、老神官ヘルムートの説明を意訳すると。

 ここはどうやら、『異世界』らしい。

 日本じゃないどころか、地球でもないってこと。

 何せこっちの世界じゃ、世の中を動かしてるのは科学じゃなく魔法。きわめつけにドラゴンが存在してるっていうんだから。


 そして、ここアスダール王国は長きにわたり、「邪竜」――人間に仇なす邪悪なドラゴンのこと――の発する「呪い」に苦しめられているんだって。


 邪竜は国の外れに位置する広大な森に棲んでいて、生きているだけで人間に害をもたらす。

 アスダールの人々は今まで数度に渡り討伐軍を送ったけれど、邪竜の力は強大で、その命を絶つことはできなかった。


 邪竜のせいでアスダール王国は何度となく大きな災害に見舞われ、産業も育たない。

 困り果てた国王は国じゅうの魔術者を集め、異世界から「聖女」を呼び寄せる術を行なった。


 なんだかね、邪竜の呪いに対抗するには、この世界の摂理の外で生きる「異質な存在」が祈りを捧げることが有効なんですって。

 異質な存在とは、異世界人、つまりは聖女ってことらしい。


 召喚の儀式とやらは過去にも実施され、そのたびに降臨した聖女の祈りによってアスダール王国は邪竜の呪いを免れてきた。

 しかも歴代の聖女は、アスダール国王の正妃になるのが習わしだそう。

 

 ――と、ここまで話したところで、ラスティン国王が訝しげに眉を顰めた。


「ヘルムート、聖女は一人ときまっているはずだな?」


「さようでございます、国王陛下。魔法陣の中に異世界人が二人同時に現れたなど聞いたことがございませぬ」


 ええと。

 二人のうち一人は巻き込み事故に遭っちゃったってこと?

 じゃあ、袴田さんと私、どちらが聖女なのかというと――


「神官長、ミリアが聖女ということでよいな?」


「はい、国王陛下」


 国王と神官長のあいだでごく簡単な会話が交わされ、袴田さんが聖女に認定。早!


 まあ、わかるけど。

 二十歳の袴田さんは、色白で華奢、顔立ちも可愛い。そのうえ茶色の巻き髪、淡いピンクのゆるふわワンピース姿。同性の私から見ても華があるし、いかにも聖女っぽい。


 かたや二十八歳の私。髪は一本縛りだし、服装は黒一色のパンツスーツ。

 それ以前に、顔立ちもスタイルも平均的。

 子供の頃は、よく「千花ちかちゃんって名前負けしてるよねー」と言われたっけ。


 第一、自分に特別な力があるとは到底思えない。

 だから袴田さんが聖女ってことで異論はないんだけど……

 

「みりあが聖女? じゃあみりあ、ラスティン国王のお嫁さんになれるの?」


「そうだ。どんな贅沢もかなえてやるぞ」


「やったー! ラスティン様、だーいすき!」


 まんざらでもなさそうな袴田さん。

 たしかにラスティン国王、ルックスはいい。それに「お妃」っていう響きは確かに魅力的だ。

 でも、でもね。


「ねえ袴田さん、いいの?」


「何が?」


 面倒くさそうに袴田さんが訊き返してくる。


「ここが安全な場所かどうか、まだわからないじゃない。それに国王このひとたち、あなたを元の世界に還す気がサラサラないみたいよ……気づいてる?」


 私の言葉に、袴田さんはニヤリと笑って囁いた。


「そんなの、とっくに気づいてます。こうなったら少しでもメリットのある生き方を選択するまでってことですよ」


「え?」


 私たちのひそひそ話に、ラスティン国王が割り込んできた。


「ミリア、この女は? お前の侍女か?」


 尋ねられた袴田さんが、何かを思いついた顔で唇の端を上げた。

 国王へと振り返り、甘えた声を出す。


「違いますー。これ、みりあの召使いです!」


「召使い?」


 え、私が袴田さんの?


「そうか。では世話役として側に置くか?」


「結構です、国王陛下。この召使い、ぜんぜん使えないし、普段から意地悪ばっかりするんですよぉ。さっきもみりあ、この人に暴力を振るわれそうになってて。それで一緒にくっついてきちゃったんじゃないですか?」


「暴力って……それは違うでしょ、袴田さん!」


「いやー、こわーい!」


 国王の背後に隠れる袴田さん。


「それはいかん、取り押さえよ!」


 ラスティン国王の言葉で、私は護衛騎士たちによって拘束されてしまった。


「ちょっと待って、聞いてくださいってば!」


 必死に訴えてみるも、誰ひとり耳を貸してくれない。

 床に押さえつけられた私を、袴田さんが口元に手を当てて見ている。笑いを隠しているのだ。


「こちらの女はいかがいたしましょう、陛下」


 騎士みたいな格好をして、腰に剣を佩いた若い男性がラスティン国王に尋ねている。騎士団長ってとこかな。


「そうだな……よい使いみちがある」


 騎士団長(決めつけ)の耳もとに唇を寄せ、国王が何事か囁いた。

 言われたほうは顔をしかめる。


「いや、しかし……それではあまりに、この異世界人が哀れでは」


「何を言うか。我がアスダールの役に立ってもらうのだぞ。この女にとっても名誉なことだ」


 そう言って笑ったラスティンの表情は、さっきの袴田さんによく似ていた。


  ・

  ・

  ・


 国を守るための、異世界からの聖女召喚。

 ここまでは理解できないでもない。いや、荒唐無稽だし迷惑だなーと心から思うけど、まあ動機としては、わかる話。


 だけど、それに巻き込まれただけの私の使いみちが「邪竜への生贄」って!!

 それはさすがに納得いかないし、ひどすぎない!?


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