幼馴染な君/高校生×大学生(男の子ver)
幼馴染って遠いようでやっぱり近い・・・。
都会の夏は暑い。
コンクリートが熱せられた都会の暑さは
俺が今まで過ごしていた街の暑さとはまるで別物だった。
「よーいっち!」
「ぐっ…なんだよ峰岸か」
講義が終わり、机の上に出したノートや教科書をカバンに入れていると
後ろからうざったい勢いで飛びつかれた。
「お前とはひでーなっせっかく洋一にもいい話持ってきてやったのに」
「あっそ、俺は別にいらない」
「相変わらず冷めてんな洋一はっ」
「そうだな、じゃあ俺帰るわ」
「あぁー!!ちょっと待った待った」
「…なんだよ、俺バイトあるから」
帰ろうとすると峰岸が俺の服をひっぱった。
講義室にはまだ何人か残っていて、次の講義を連続して聞く人も多そうだった。
峰岸は声がでかいから、こういう所で話すと全て筒抜けになる。
「ちょっとだけだから座れって、座ってください」
「・・・少しだけだぞ」
「はいはい。すぐ終わりまーす」
俺はもう一度席につくと、なにがそんなに面白いのか峰岸が俺の顔を見て笑いをこらえている。
すると、ポケットにしまっていたスマホを取り出し俺と画面を見せた。
「なに?」
「なにってこないだ飲み会にいただろ?この子」
「…覚えてない」
「ゲッまじかよ。一番かわいかったのに?洋一の隣に座ってただろ」
「そうだったか?」
もう一度峰岸のスマホの画面を見るが、本当に覚えがなかった。
1週間くらい前、峰岸が大学生活を謳歌する為にとか適当な理由で
飲み会がセッティングされた。
「ったくもーお前そういうとこ直さねぇとモテねぇぞ
高校まではビジュアルと運動神経でなんとかやってこれたかもしれねーけど
大学になったらそうはいかねーぞ!!」
「ンでなに?その子がどうかしたの?」
「今度の日曜に遊ばないかってむこうから連絡あったんだよ」
「へぇーよかったな」
「・・・ちげーよ」
峰岸を見ると、先ほどまでの浮かれていた顔が急に苦い顔に変わっていた。
「何が違うんだよ。目当ての子に誘われたんだろ?完璧に脈ありってことだろ?よかったじゃん」
「ちげーっての!!ミホちゃんはお前込みで誘ってきたんだよっ
だからお前来週の日曜日あけとけよ」
ミホちゃん?あーその峰岸のお気に入りの子?
「いや、いいよ俺は。峰岸行ってきなよ」
「バカバカ、お前来ないと俺が嘘つきになるだろ」
「予定会わなかったとか適当に言っておけばいいだろ」
スマホで時間を確認すると、そろそろ出ないとバイトに間に合わない。
「俺、バイト行かないと」
「洋一さ、女の話になるとノリ悪いけどなんかあるわけ?」
「何が?別になにもないけど」
「実は彼女いるとか?もっもしや男派!?いやそれでも俺は応援するぜ」
「ンなわけねーだろ」
「忘れられない子がいる~とか好きな子がいる~ってそういうタイプでもなさそうだよな、洋一は」
一瞬誰かの顔が浮かびそうになった。
丁度いいタイミングでスマホが鳴った。
マナーにし忘れたスマホはやたら明るい音で講義室に響いた。
前に座っていたメガネの男が俺を見て軽く睨んだ気がしたが、すぐに前を向き直した。
「・・・」
「でねーの?」
「いいや」
「えっなんで?」
「うるせーのわかってるから」
「まっまさか本当に彼女!?」
「違う。妹だよ。悪い俺そろそろ行かねぇーと遅刻する」
「あっあぁ。とりあえず来週の日曜日考えといてくれよ」
俺は電話を強制的に着ると駅まで小走りで向かった。
校舎を出ると、まだ始まったばかりの夏が途端に主張しだいた。
とにかく蒸し暑い‥‥。遮る日陰がまるでない。
昼間の暑さは夜になっても収まらなくて。たっぷり熱せられた都会は日差しをしらない夜にすら蔓延っている。
ブゥブゥブゥ
またポケットの中でスマホが鳴った。絶対小枝子だ。
あいつ俺が出ないと出るまでかけてくるからな
こっちの予定も少しは考えろよ。
電車の発車時刻をみると、あと5分ほどあった。
「もしも」
『あーもうやっと出た!遅い!』
「あのなぁ、俺にも予定ってもんが」
『今度の日曜日さヒマ?』
「ヒマじゃねぇーよ。忙しい」
『ちょっと家に来て欲しんだよね』
「はぁ?なんで俺が」
『その日パパとママいなくてさ、留守番しといてくれない?』
「だからなんで俺が」
『いいから!ちょっと話したい事もあるし』
「話したい事?なんだよ改まって」
『最近、千奈が元気なくてさぁお兄ちゃん千奈と仲良かったでしょ?
だからみんなで久しぶりにパアァーっとすれば気分転換になるかなって』
「なんでそれが俺なんだよ、お前らでやった方がいいだろ…それに俺全然会ってないし」
『じゃそういうわけだから、来週の日曜日よろしくねぇ~』
「…えっおい!ちょっと待てって!!小枝子っ」
ツーツーツー
電話が切れた音がやたら大きく耳元でなっている。
電車が来るアナウンスがどこか遠い。
電車が勢いよくホームに入ってくると、流れるように昼からの授業を受けに来た生徒が降りて来た。
俺もその流れの一部のように、電車に乗り込んでいく。
東京に来て、大学に通えば。
全て変わると思っていた。
新しい環境、生活、友人に囲まれていれば
いつかは、あの街に置いてきたものも見つけられると本気で思っていた。
『まもなく列車が発車します。黄色い線の内側までお下がりください』
大学に通って3年目、俺は未だ見つけられていない。
発車のアナウンスと共に、自動ドアが閉まった。
気が付けば、俺は電車を降りていた。
電車がゆっくりと加速していき、あっというまに前から消えた。
静まり返るホームには俺と水色のベンチにいつも腰かけているおばあさんしかいなかった。
電車から降りた生徒の賑やかな声がどんどん遠ざかっていく。
「あれ?洋一?」
「・・・峰岸」
「なんだよ、お前急いで出てったからついさっきの電車に乗ったのかと思った」
次の電車が来るまであと15分。
駅からダッシュすればギリギリ間に合うだろう。
「悪い峰岸…俺やっぱ今度の日曜日行けなくなった」
「えーなんだよそれ」
ガラじゃないこんなの。
格好つけたいのに、こんなんじゃもう格好もつかない。
「俺、ずっと好きだった子いるんだけど…。今度の日曜日その子と会うから
だから、ゴメン・・・」
好きな子なんて言ったら絶対笑われるだろうし、バカにされそうだってわかってる。
だけど、どこを探したってここにはいないんだ。
「なんだよ、そういう事は早く言えって」
峰岸を見たら、いつものように大きな声を出してクシャクシャな笑顔を見せた。
でもそこには俺をバカにしてるとか、そういうのはなくて…
ガキなのは俺だと思ったらよけいに恥ずかしくなった。
都会の夏は暑い、昼間の火照りは夜まで続き冷める気配がまるでない。
夏に進むのが疎ましかった今日までだけど
俺は、更に暑くなるであろう来週の日曜日を待ちわびていた。
「ンで洋一の好きな子ってどんな子?」
「…絶対言わねー」
「なんでだよっちょっとくらい教えてくれたっていいだろ」
「やだ」
「何照れてんだよ」
「てっ照れてねぇーよっ」
「あっじゃあさお前の妹紹介してよ」
「絶対やだ」