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3.後ろからの声

 ショッピングセンターを出て、それでもまっすぐ帰る気にはならずにあちこち歩き回っていると、不意に見覚えのある場所に出た。

(ここは……)

 申し訳程度の遊具しかない、小さな公園。町の片隅に、取り残されたようにある、この場所。そこは、かつて僕と田上くんが遊んだ、二丁目の公園だった。

 僕は思わずそこに足を踏み入れていた。あの頃よりも公園はとても狭く感じた。それは恐らく僕が成長したせいだ。フェンスも、遊具も、ところどころ錆が浮いている。それだけ時間が経ったのだ。

 もう夕刻だ。暗くなり始めている。僕は家へ戻ろうと入口の方へ向き直った。すぐ前の道路を車が通って行く。

 と。

 走る車を見て、僕の頭の中で何かがカチリと噛み合った。心の奥底から、忘れていた記憶が浮かび上がって来た。走る大型の車。親しかった少年。彼は僕の名を呼んで、周りに目もくれずにこちらへ駆け寄って来る。車はスピードを落とさない。

(──田上くん!)

 そうだ、これはあの時の光景だ。危ない、と言う間もなく、田上くんは走って来た車に跳ね飛ばされた。

 ドン、という衝撃がこちらにまで伝わった。僕の目の前で田上くんの体は吹っ飛び、アスファルトに叩きつけられた。田上くんは少しだけ痙攣し、動かなくなった。

 公園に子供を連れて来ていた母親の一人が悲鳴を上げた。それが合図となったように、周囲にいた大人達が車と倒れている田上くんに駆け寄って来た。

 そう、あの時。怒号のような声が飛び交う中、僕はこっそりと公園を出たことを思い出していた。怖かったのもあるし、田上くんが轢かれたのは僕のせいだと言われそうな──一種の被害妄想じみた考えに取り憑かれていたのもある。とにかく僕はそこを逃げ出した。友達を、見捨てて。

 ……ああ、そうか。

 記憶が曖昧だったのは、これを思い出したくなかったからだ。目の前で友達が轢かれた恐怖と友達を見捨てた罪悪感に蓋をして、すっかり忘れて。……そんな最低な自分から目をそらしてこれまで生きてたんだ。

 そこまで思い出した時、辺りがすっと暗くなった。

 ひた、と足音がした。後ろからだ。

 小さな気配が、ゆっくりと近寄って来る。

「ねえ」

 声がした。子供の声だ。

「遊ぼうよ」

 それは確かに、聞いたことのある声だった。

 気配がある。でも、振り返ることは出来なかった。

「……どうしてあの時、置いて行ったの?」

 その声はすぐ後ろから聞こえた。いる。そこにいる。

 僕はその声を振り払うように、公園の外に向かって歩き始めた。最初はゆっくりと、そしてだんだんと早足に。子供の声はまだ何か言っていたようだが、耳に入らなかった。

 公園を出てからはほぼ全力疾走で、どこをどう走ったかはわからないけれど、気がつけば自宅の前にいた。ふらふらしながら自室に入り、僕はばたりと倒れ込んだ。


 ──また、逃げてしまった。自分の罪から。


 その夜僕は、胎児のようにうずくまって眠った。罪悪感を噛み締めながら。

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