劣化魔術と魔法の言説
次の日、私とガオリスは大樹の奥にある広場に居た。
いよいよ修練が始まったのだ。
「取り合えず斬りかかれば良いか?」
「お前さんは、狂戦士か……」
あながち間違いでは無い。
「まぁ剣術に関しての技量は見る所がある。後は実戦の中で育てりゃいいだろう」
なら教わる事は無いじゃないか。
「お前さん、魔術はいつから使っているんだ?」
魔術?
「そんなモノは使っていない」
「なるほど、無意識か」
「ん?」
「昨日の戦いを見ていたが、肉体強化の魔術が使われていたな。まぁ出来はひどいもんだったが」
「待て、まず魔術の説明をしろ」
「へいへい、魔法は知っているな」
「火や風を生み出す方法だろ」
何も無い所に炎や竜巻、それに雨や雷を落とす者も居ると聞く。
「厳密には違うな」
「魔術と魔法で違うのか?」
拾った小枝で土に絵を描くガオリス。
「魔術は、魔法が形になるまでの段階を言うんだ」
「形になるまで?」
「例えば土を手に乗せるだろ、そしてそれを投げる動作。ここまでを魔術と呼ぶ」
ガオリスが手を振ると、土が飛んでいった。
「そして今飛んでいる状態の土が、魔法という定義になるんだ」
説明によると”魔術は魔法になるまでの過程”であり。
”魔法とは結果”だという。
「過程と結果か……」
何となく分かったが、逆に疑問が生まれる。
「それならば肉体強化の”魔法”と呼ぶべきではないか?」
肉体が強化されるという”結果”が出ている以上、魔法という定義に類するはずだ。
「良い所に気が付いたな、それも間違いじゃない」
ガオリスはニッと笑う。
「魔法は火や風を操って敵を攻撃するが、劣化魔術は肉体を強化することに特化している。火が出たり風が生まれたり表面上に分かりやすい結果が出ないだろ。だから一部の権威あるクソ野郎どもが下に見ていたんだな」
呆れた様な表情でガオリスは言う。
「故に劣化魔術と呼ばれるようになった」
「劣化魔術……」
魔法になれない魔術。
結果になれない過程。
つまり魔術としても劣等生と言うことか。
「馬鹿らしい」
肉体を強化するという結果は出ているのに、それを認められない人が居るというだけの事。
強ければどちらでもいい話だった。
私の様子を見ていたガオリスが薄い笑みを浮かべていた。
「実際のところはどうなんだ?」
「能力の違いか」
魔法と劣化魔術のどっちが強いのか。
魔法を覚える方が強くなれるのならば劣化魔術に用は無い。
「勿論最終威力ならば魔法の方が上だが、その分魔術を行使するまでに時間が掛かる」
過程であり予備動作である魔術の段階で、手間が掛かるのだろう。
空手で焚き木に火を灯すのが時間が掛かる様に。
「そんな隙があるならば三度は剣先が届くだろうさ」
ガオリスは自慢気に言う。
「何を隠そう、その劣化魔術を極めたのが俺様だ!」
「ふーん」
「冷めてるなぁ……」
興味が無かった。
「まぁお前さんの修行方針は決まったな」
つまり劣化魔術を極めていく事が強くなる近道という事か。
「ボクを強く出来るならしてくれ、何でもする」
「ほぉ、何でもって言ったな」
この身を炎に包む事も厭わない。
あの憎き赤の竜を殺せるのならば、私は……!!
「ならボクじゃなくオレと言え、強く生きるならな!」
「あぁ、オレはアンタよりも強くなる!」
「……ふ、がっはっはっはっ。その意気だ!!」
私は最強を目指す、全てを薙ぎ払い復讐を果たす為に。
この身を、心を燃やし尽くす日々が始まるのだった。
明日投稿できないかもなので、明日の分を本日投稿で明日の更新は御休み致します。