似ている二人
クルルスが体に湯をかける仕草が視界に入る。
よく見ると、体は火傷の跡が酷かった。
全身に広がっており、まるで何かの模様の様にすら見える。
これでよく生きていたな、と思うほどに。
「これが無きゃクルルスはもっと強かったんだがな」
私の視線に気付いてガオリスが言った。
「どういうことだ?」
「激しい運動をすると体が熱を持つだろ。だが火傷のせいでその熱が逃げていかないのさ」
「動くほどに熱がこもる?」
「あぁ、長時間の運動を行えば熱で自分を焼いてしまう」
それは何というか。
傭兵としては致命的なのではないだろうか。
「だが、これがあるから強くなった」
クルルスは呟くように言う。
「よく分からん」
「この瀕死のような体だからこそ編み出した技があるんだよ。機会があれば見ることもあるだろう」
「それはボクでも使えるのか?」
「……」
二人は顔を見合わせた。
「がっはっはっ!」
ガオリスは笑ったが、クルルスは考えるように口元に手を置いた。
「無理だな」
そして、そう結論付けた。
「そうか、なら良い」
「……そうか」
クルルスはそれ以上深くは話しかけて来ない。
「面白いだろコイツ?」
それを見てガオリスが茶化す様に言った。
「コイツではないフルミスだ」
「有望な新人だな」
表情の少ないクルルスが一瞬だけ薄い笑みを浮かべた。
「だが……」
クルルスは再び表情を失くすと。
「綺麗な肌だ」
変な事を呟いた。
「は、はぁ……?」
急に何を言い出したんだコイツは。
「何だよお前、男の方が好きだったのか」
「そうじゃない。闘えるのかと思っただけだ」
その言葉は私に対する侮辱に聞こえる。
復讐を誓った、私の激情に対する……!
「やってみるか?」
舐められっぱなしでは納得できない。
幾らでも闘ってやる。
「いや、いい」
だがクルルスは首を横に振ると立ち上がった。
逸っていた私はクルルスを凝視していた。
「んなっ!?」
その為、予想外の奇襲を受ける。
クルルスの色々が丸見えだったのだ。
「先に出る」
私は慌てて反対にそっぽを向いた。
「ぐ、ぐぐ……」
予想外の攻撃に歯軋りをして耐える。
「俺様も出るとするか」
すると向いた方向に居たガオリスも立ち上がった。
「なっぬぬぬ……」
今度はガオリスの色々が丸見えだった。
「長風呂は良くねぇから、程々にしろよ」
そう言って去って言った二人の後。
御湯の中で必死に耐えていた。
は、初めてみた……。
見たくも無いものを見てしまった……。
「……ブクブク(ムカツク)」
結局二人が更衣室から出て行くまで、御湯に空気を放っていたのだった。
「おぅ、飯だぞ」
「ふん」
「ふん、じゃねぇよ……」
夕食の時間が来ると一つの大きな部屋に三人が集まった。
机の上には手の込んだ食事が用意されている。
「わざわざ集まる必要はあるのか」
「作ってやっているんだ、顔ぐらい出せってこった」
「ん、待て。誰が作ったんだ?」
「あぁん、俺様だが」
「馬鹿な」
「お前さんに言われたくねぇよ……」
信じられない。
この筋肉質の巨漢で粗暴そうな外見で、よくこんな繊細そうな料理ができたな。
「納得できない」
「へいへい、まぁ座れや」
椅子に座るとガオリスもクルルスも何も言わずに食事を始めた。
私も以前は祈りを捧げたりしていたが。
家族も村も守ってくれなかった万物に祈る事など今は無い。
「……」
スープを飲んでみる、正直料理の味は分からない。
あの日から何を食べても味がしないのだ。
ただ、体が温もる感触は感じられた。
「喰うのも修行だぞ、ガンガン喰え」
「ちっ」
パンや肉を食べると、スープで無理やり胃に流し込む。
味わって食べる時間を短縮できると思えば味覚が無いのも不便ではない。
「……」
細身のクルルスも思った以上の勢いで料理を食べている。
食べ方も私と同じ様に流し込む形だった。
「作りがいがあるねぇ」
私達を見て、ガオリスが皮肉っぽく笑みを浮かべていた。
次回からアクションシーンが増えていきます。