表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/34

御風呂場

 部屋の中を確認する。


 机や棚、そして木製の寝床が用意されている。

 荷物を机の上に置いた。


 少なくとも使い勝手は良さそうだ。



「修行は明日からだ、ゆっくり休んでおけ」


「今からでも問題ない」


「こっちの都合だよ」


「……ふん」



 私は不満を紛らわせる様に寝床に腰掛けた。

 そして何気なく天井を見上げる。



「……」



 何かを思い出そうとして止めた。

 きっと必要のないことだ。



「そうだ、風呂にでも行ってこい」


「必要ない」


「必要あるから言ってるんだよ……」


「どういう意味だ?」


「お前ちょっと、臭うぞ」



 ……。



「出ていってくれ」


「あん?」


「早く、だ!」


「お、おぅ……? この建物の反対の方にあるから自由に使ってくれ」



 ガオリスはそう言うと、首を傾げながら部屋から出ていった。



「……(クンクン)」



 自分の匂いを嗅いでみる。

 気付かなかったが少し臭う気がした。


 匂いに慣れた自分でも分かるのなら、他人ならば余計だろう。



「……」



 私は暫く逡巡していたが。

 結局、いそいそと準備を始めた。






 大木の左手に隣接された住居。

 其処から階段を降りると、右手方向へと歩いていく。


 この辺りの敷地が全て所有物らしい。

 傭兵団とは儲かるものだな思う。


 強くなる為にも金は掛かる。

 好きに使って良いというのならば、あって困る物では無いだろう。


 御風呂場は自然の川を利用して外に作られていた。


 岩で囲った湯船に、絶え間なく御湯が湧き出ている。

 それを川の水で温度調整している様だった。



「見事なものだ」



 大木の近くに温泉があるのは不思議な気分だった。


 だが景観は間違いなく良い。

 これで商売ができそうだ。



「ふぅ……」



 湯船に入ると、体が震えているのが分かる。

 かなり久方ぶりの風呂だった。


 体を伸ばすと、疲れが飛んでいくような錯覚を覚える。



「……」



 御湯に浸かるのは気持ちが良い。

 流れる汗が不純物を吐き出していく気がする。


 だから、不安になってしまった。

 この燃え滾るような心の怒りまで、流れ出てしまうのでは無いだろうか?


 拳を握ってみる、強く、より強く。

 感情をちゃんと刻み付けるように。


 強く握った手の、爪の痕だけが私の全てだ。

 それ以外の感情はいらない。



「……そろそろ出ようか」



 湯船から立ち上がり、更衣室に戻ろうとしたところで気付いた。



「ふんふーふふーん♪」


「なっ!?」



 誰かが更衣室に居るのだ。

 鼻歌まで歌っている。



「くっ……」



 悪態を吐いても現状は変わらない。

 冷や汗が流れ出る感覚は、心地の良い物では無かった。


空気の読めないオッサンが参戦!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ