想いの閃光
全てが無くなってきた。
聴覚が無い、味覚が無い。
全てを落としてきた。
家族が居ない、性別もない。
全てを燃やしてきた。
記憶も感情も、この身も全て。
それも全て、この時の為だ。
こいつを殺す。
それだけで良い。
それ以外いらない。
体に力が、熱が灯っていく。
劣化魔術の出力が上がっていく。
目の前には草木を焼く焔。
全てはあの炎から始まった。
生き物を殺す能力。
他者を否定する力。
そんなモノ、オマエにはいらないだろう?
「剥ぎ取りに行くぞ」
そう呟いた自分の声を置き去りにした。
加速加速加速。
音速を越えて更に速く。
再びの炎より先に辿り着き、喉元を穿つ。
それだけの存在。
それだけの瞬間。
それだけの証明。
「あぁああああああああああああああっ!!!!!!!!!!」
もはや視界の端など存在しない。
必要ない。
竜の首を目掛けて走り込んでいく。
「がぁあああああっっ!!!!!!」
竜の叫ぶ声など聞こえない。
そんな余計な機能は既に潰れている。
融けていく様な感覚。
体が液状になるのならば。
まだ燃やせる。
蒸発して存在しなくなるまで燃やし尽くせ。
「……っ!!」
だが、それでも間に合わない。
空気が変わり、竜の口元と目が合う。
互いの速度で衝突は一瞬の出来事。
炎の色が目前に迫る。
思考選択。
加速選択。
ならそれごと。
「斬り飛ばしたらぁあああああああああああああ!!!!!!!!!!」
剣を正面に振るう。
炎に向かって弾け飛んでいく。
劣化魔術の出力は限界を超えて、もはや限界など分からない。
ただ全てを込めてぶつかった。
塵一つ残さない炎に、塵一つ残さない激情が突き刺さっていく。
狙いの首に飛んでいるかも分からない。
熱くはない。
痛くはない。
ただ前へ。
真っ赤な炎の中を突き進んでいく。
それは矢よりも速く、鋭く、硬い。
人の想いの閃光だった。
「ぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!」
突破。
炎を抜けた先にあったのは、竜の顔。
残された隻眼の眼でこちらを見ている。
ならばこのまま貫く。
「刺されぇええええ!!!!!」
目に剣を差し込む。
入っていかない。
竜の劣化魔術が作用している。
眼球という守るべき部位に劣化魔術を集中させているのだ。
トカゲの癖に生意気だ。
いいから黙って死んでおけ!!
「ぐぐっ……!!」
剣先が沈まない。
劣化魔術の出力は限界以上。
これ以上出来る事。
それは経験の中にあった。
非力だった私が編み出した戦い方。
この身を回転させて威力を上げる。
たとえそれが真っ直ぐ突き出した剣だとしても同じだ。
掘削する様に回転させる。
それが進む力を乗せるのは、この世界の道理なのだ。
「はぁああああっ!!!!!」
全身を回転させながら剣を押し込んでいく。
「あぁあああああああああ!!!!!」
少しずつ剣が前へ進んで行く。
「あああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
貫けぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!
「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!!!」
――――ズブッ。
剣が軽くなる感触がして、液体が吹き飛んできた。
「ぎぃいいあああああああっ!?!?!?」
汚い鳴き声が響き渡る。
竜の眼に剣が突き刺さっている。
「やった……ぁ」
自覚した途端、力が抜けた。
劣化魔術の反動が来たのだ。
視界が真っ黒に染まった。
呼吸も定かでは無い。
まずい、そう思った気がする。
まだ早い。
竜は動けるのに私の体が……。
思考と同時に竜の動きは荒ぶり。
暗闇の中、私は何処かに吹き飛ばされていった。
完結まであと少しです!




