真相
本日投稿分の一話目です。(1/2)
翌日から始まった聴取では、既に後戻りできないことを理解したのだろう。
ロスバーグ公爵夫人も、エミール公爵令息も、自らの罪を素直に認めた。
自分たちの企みを、諦めたようにポツポツと供述し始めているという。
こちらが調査したものと照らし合わせ、他にも余罪がないか確認中だ。
二人の思惑は大まかに、王妃である私を排してブランカに罪を被せ、本人の罪悪感を煽り周囲からの評判を貶めることが目的だったらしい。
公爵夫人は新たな王妃の座に収まり、ゆくゆくは男児を生んでその子を王太子とするため、ブランカの廃嫡を望んでいた。
エミールはブランカの夫として王配となり、自らが権力を握るため、早いうちからブランカの求心力を削いでおきたかったという。
けれどブランカが廃嫡されては全てが台無しになってしまうため、その点で公爵夫人と意見が対立していた。
大抵は協力関係にあったものの、そうした食い違いから、陰謀としては中途半端で違和感のあるものとなっていたのだろう。
どちらの思惑からも貧乏くじを引いたのは、やっぱり王妃の座にいた私だ。
ロスバーグ公爵夫人からすれば目の上のたん瘤で、エミール公爵令息からしても、ブランカを御すためにいない方が都合の良い存在だったわけで。
結局、晩餐会の一件ではブランカに罪を着せるために用意した毒入りの小瓶を、エミールが裏切って公爵夫人の持ち物に紛れ込ませた。
けれど私に盛られた毒はそのままだったので、気づかなければやっぱり危ないところだったのだ。
どこからともなく現れブランカの求婚者と囁かれていたフローラも、二人にとっては邪魔者の一人だったに違いない。
そのことに関しては、他国の王子の目の前で毒殺騒ぎが起きれば、婚約話も流れるだろうと踏んでいたらしい。
背景を知れば随分と杜撰にも思えるけれど……実際のところ、こうして現行犯で大っぴらに醜態を晒させなければ、別にいる実行犯に罪を着せ、逃げおおせていた可能性も否定できない。
この陰謀に大きく加担していたのは、二人の生家であるグリュンベルク公爵家だった。
多額の資金を援助し、さらにそこから提供された人材を関係者に引き込んで、手足として使っていたのだ。
元より公爵は妹であるロスバーグ公爵夫人の頼みを断れる性格ではなく、息子が王配になれるのではないか……という希望にも胸を躍らせていた。
どちらに転んでも甘い汁が吸えると目論んでいたのに、大いに当てが外れたに違いない。
既にグリュンベルク公爵家の邸は封鎖され、公爵も首謀者の一人として連行されてきた。
これから彼にも厳しい尋問が待っているだろう。
公爵夫人の嫁ぎ先であるロスバーグ公爵家は、それなりに後ろ暗い部分もあったものの……彼女に家格を貶められ、どちらかといえばむしろ多くの被害を被った。
そして夫である公爵は長年病床にいたが、その原因は老衰ではなく、長期に渡り毒を盛られ続けていたことが発覚し、こちらも大変な騒ぎとなった。
ロスバーグ公爵夫人もエミール公爵令息も、多くのことを語った。
二人はそれぞれ陛下やブランカへの愛を口にしていたが、その実、話を聞いていれば結局は身勝手な理由をつけて、直系王族に付随する権力を欲していたのは明らかだった。
そのことが、なんだか酷く虚しかった。
***
「ルシャード陛下って、年の離れたお姉様が何人もいる末っ子なんですよ。前国王夫妻は、長年男児に恵まれなくて……ようやく生まれた待望の息子が、陛下だったそうです」
「……知ってるわ」
ポツポツと話す私の言葉に、フローラは静かに頷いた。
「前国王夫妻は政略結婚だったにもかかわらず、夫婦仲が良かったそうで。側室を娶るのが当然の時代に、跡を継がせるのは絶対に二人の間に生まれた子でなければと、前王妃様は身体が弱いのを押して、何人もの御子をお生みになったとか」
どれほど心身への負担が大きかったか、考えただけで苦しい。
けれど……きっと多くの家で、似たようなことが繰り返されてきたのだろう。
フローラの手が、慰めるように私の手を温かく包んだ。
「長女である姉姫様は、特に優秀だったそうなんですが……。慣習としては、やっぱり息子でなければ王位を継がせられないということで、どうしても男児が必要だったんでしょう。ようやくルシャード陛下がお生まれになったころには、母親である前王妃様は寝台から起き上がれないほど弱り切っていたそうです」
そのような境遇はルシャード陛下にとって、多大な影響を与えたに違いない。
後継者は一人で十分だと主張し続けたのには、そうした事情もあったのだろう。
かつてブランカのことを放置していたと思わせるほどの放任主義も、後継者といえどある程度は自由に過ごさせてあげたいという、あの人なりの想いの表れでもあったのかもしれない。
「たくさんの思惑に晒される中で、法を整えて、政務に人生を注ぎ込んでまで自分の主張を貫いたのは、本当に凄いことですよね」
そのために思いっきり私を巻き込んでくれたわけだけど……それについては、もう言うまい。
――だってもう、私はあの人の妻ではなくなるのだから。
「ヒルデが今言ったことを、口に出して認められたことも……十分、凄いことだと思うわ」
「そうですね……おかげさまで、自分でも随分と成長したように思います」
心からそう思えた自分が、少し誇らしかった。




