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白雪姫の継母と鏡の向こうのオネェ  作者: 汐乃 渚


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手土産獲得



「あら、侍女長が私の元を訪れるなんて、一体どんな要件かしら?」



出迎えれば、やって来たのは渋面を浮かべた侍女長だった。


目の前のキビキビとした雰囲気のマダムは、王宮内の侍女を取りまとめる立場の人間ながら、普段から多忙を強調して私の元を直接訪れることは少ない。

恐らく、お飾り王妃を敬えない人間の一人なのだろう。

王宮の侍女長ともあろう者が、仮にも王妃の眼前でこれほど自らの感情を隠せていないことからも、そのことは明白だった。


前王妃の時代には古参侍女の一人に過ぎなかったそうだけれど、前王妃が亡くなった後に前侍女長が職を辞したことで、私が嫁いでくる少し前から侍女長へ出世したそうだ。



これまでなら、面倒な相手だと適当に相手をしていたところだけど……今は違う。


鴨が葱を背負って来たというのはこのことかもしれないと、内心ほくそ笑む。

呼び出す手間が省けたわ。


お菓子の用意は私の自己満足にすぎないけれど、これなら――ブランカへの手土産(・・・)として、相応しいと思っていたところよ。



「最近、王妃殿下の行動が目立ち過ぎると報告が上がっております。また、先日の陛下の生誕パーティーの場では、王妃殿下に付いている侍女の進退についても口になさったとか。そういったことは、侍女長である私へまず話を通していただかねば困ります! ドレスの件も……それに加えて、今度はブランカ姫とお茶会ですか!? 何故私にご一報……いえ、お申し付けくださらないのです!」



神経質そうに眼鏡を弄りながらの侍女長の発言に、思わず笑いそうになってしまう。

いけない、怒る演技をしなくちゃいけないのよね。



「まぁ! 突然やって来た割に、随分と立ち入ったことを言うのね」



尊大で気だるげに、そう言い放つ。

そんな私の態度を見て、侍女長は眉のシワを深くするけど……これでも何年か悪女っぽく振舞ってきたのだ。

この程度は慣れたものよ。


今までと違うのは、狩る側として私の中にやる気が満ちていることくらいかしら。



「私の行動が目立ち過ぎている? 何のことかしら? ひと月以上引きこもっている私が、一体どこで目立つというの。私は王妃なのですから、パーティーに参加すれば人目を惹くのは当然のことでしょう」



何が言いたいのか、意味が解らないと首を振ってみせる。



「それなのに目立ち過ぎ、だなんて……まるでパーティーでの私(・・・・・・・・)しか見ていないような言い分ね? 侍女長が駆け込んでくるんですもの。よっぽどたくさんの報告(・・・・・・・)があったのねぇ。侍女長にそんな報告をする者なんて侍女たちしかありえないのに、そんな理由で押しかけてくるなんて」

「決して、そのような単純なことでは……!」

「黙りなさい。――私の前で黙らなかった者たちがどうなったか、知っているでしょう?」



口元を扇で示せば、侍女長の顔色が悪くなる。


うんうん、やっぱりフローラの言うように、私ったらこういう才能があるみたい。

実際役に立っているし、悲しくなんて、ないんだから……!



「それから貴女、何様のつもりで私を責めているの? 『話を通せ』ですって? 貴女が仕え、従うべき者は誰?」

「そ、それは……勿論、王家の方々です」

「そうよね。それで、貴女たちの仕えているシュヴァルツ王家の女主人は、王妃たるこの私(・・・)だということも、言わずともわかっているわよね?」



侍女長が悔しそうに歯噛みするけれど、私は間違ったことは言っていない。



「それで? 『侍女の進退は私に話を通せ』? ねぇ、私が貴女に仕事を任せ過ぎたから、勘違いさせてしまったのかしら。王宮内のことは私の管轄。陛下ですら、私の決定に苦言を呈することはできても、覆すことは難しいわ。それなのに、一体どこに、侍女長の承認を得なければいけない王妃がいるというの」



この部屋に入ってから失言ばかりの侍女長だけど、きっと色々な要因が重なったのだろう。


今回を除いて、彼女から目に見えて舐めた態度を取られることもなかったし、私の仕事を減らしてくれていたところもあった。

必要な情報を後出しにされることもあったけれど……その程度ならと、私も目こぼししていたのだ。


これまでの私は、どうしようもないこと以外、事なかれ主義を通してきたので、向こうもこんな風に言い返されるとは思っていなかったのかもしれない。

私のせいで増長させてしまった部分もあると思うけれど、今こうしている背景を考えれば『わざわざやって来る程の何か』があったのだろうという結論に行き着く。



「ドレスの件も、姫と会う件も……私が伝えるまでもなく、貴女に『報告』してくれる者がいたのでしょう? それで十分じゃない」



戦慄く侍女長を眺めながら、ふぅーと長い息を吐く。



「何より、御用聞きに来るのも、ご機嫌窺いに来るのも貴女の仕事よ? それを怠った分際で、何を言うのやら。一つずつ説明してあげなくてはいけない私の身にもなって頂戴」

「な、なんということを――」

「ねぇ、どうして私が、侍女長である貴女に何も言わなかったと思う? 貴女が、務めを果たしていないからよ」

「そのようなことはありません!」



強く否定するあたり、本当にわかっていないのかしら?


侍女長の仕事は、威張って書類仕事をすることなどでは決してない。



「王族に仕え、身の回りの世話をするのが王宮侍女の仕事。そして侍女長は、そんな侍女たちを統括するのが仕事でしょう? それなのに――役目を果たせず陛下から叱責された侍女の件を、詫びにも来ないなんて。私が彼女たちを許したとしても、貴女は責任を感じて謝罪に来るのが道理ではないの? 私の口出しを待たずとも、侍女たちを管理して、必要があれば躾けることは、貴女の(・・・)義務よ。いつ来るのかと待っていたのだけど……どうやら無駄だったようね」

「なっ、わ、私は……!」



呆れたように見つめれば、侍女長はブルブルと震えている。

自分の仕事ぶりを責められたことで、頭に血が上って今にも爆発しそうだ。



「まぁ、否が応にも私はこれまで以上に目立って(・・・・)いくでしょうから、そのことは否定しないでおきましょうか」

「は……?」



悪者顔で、ニィっと笑みを浮かべる。



「これまでのやり方を、変えなければならない時が来たのよ。ブランカ姫も謹慎されるということだし――今まで他人任せにしていた務めを、私も果たさなくては。そうでなくては、私も貴女のことを言えないものねぇ?」



ふんぞり返って座っていたソファーから立ち上がると、怖い顔をした侍女長を見下ろして、殊更に偉そうな態度で胸を張る。



「近頃は特に、侍女たちの問題が目に付きます。そのせいで、ブランカ姫の侍女も交代したばかりだとか。王宮内のことは、王妃である私の管轄。姫が来年には成人を迎えるというのに、傍に侍り世話をするべき者たちがこのような体たらくでは困ります。なので――私の方で、使えないと判断した者は容赦なく解雇していきます」

「!!!」



彼女たちをクビにするかどうかは、元々私の気持ち一つなのだ。

自分の立場がようやく理解できたのか、侍女長の顔色が一気に悪くなるけれど……残念ながら、これはもう決めていたことよ。



「その姿勢を知らしめるためにも……まずは侍女長、貴女です。要職に就いておきながら、部下たちの管理を怠ったばかりか、主へ対し臆面もなく要求を述べるなど、言語道断。貴女なりに、未熟な私の行動を案じていたのでしょうけれど……もう、その心配は必要ないわ」



呆然とする侍女長に、最後の仕事を伝える。



「正式な処分を下す前に、しばらく王宮内の自室での謹慎を言い渡します。せいぜいそれまで、大切な肩書きを握りしめておくのね」

「そんな! あんまりではありませんか!? 私、私は――」

「これまでの働きに免じて、拘束はしないであげているのだから、摘まみ出される前にさっさと下がりなさい」



にじり寄る陛下の護衛に対して、侍女長は喚き散らしているが、もう決定が覆ることは無い。


そうして、好き勝手している私に一言言ってやろうと息巻いてきた侍女長は、逆にクビを突きつけられることとなった。



***



空いた侍女長の席には、教育の一環と称して、一時的にブランカを任命しようと思っている。



――これこそが、私がブランカに用意したかった本当の贈り物。



陰謀を企てた者たちの洗い出しを始めるという彼女は、これで『姫』ではなく『侍女長代理』として、王宮内を自由に動けるようになる。

情報も、この方が集めやすいだろう。



これは、怪しい者たちに与える飴と鞭。


明らかに私は飴をあげるタイプじゃないし、ブランカのカリスマがあれば、掌握は容易いだろう。

私は背後で、気に入らない者をクビにするとアピールし続けるだけで良い。



「喜んでもらえると良いなぁ」



誰もいなくなった部屋で一人、そう呟いたのだった。



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