お姫様に捧げるお菓子
ブランカと交流するぞ! という決意はしたものの、じゃあ早速会いましょうか……とはいかない。
私なりのけじめの場でもあるので、準備が必要なのだ。
「準備って――お菓子じゃない!」
私のプランを聞くと、フローラはギョッとしたように目を剥いた。
手土産の話をしただけなのに、どうしてそんなに驚くのかしら?
「お菓子ですよ。女の子への贈り物としては最高じゃないですか」
「そりゃそうでしょうけど! 過去にいろいろあった義娘相手なんだから、準備といえばまずはもっとこう、心構えとか話題とかあるでしょう!?」
「まぁ、その辺も追々」
「ヒルデって、結構大胆なところあるわよね……」
呆れたように首を振られてしまうけれど、気にしてはいられない。
ようやく、使いどころのない前世の記憶に頼るときが来たのだ。
ブランカと会う場については、王宮のテラスでお茶会を開こうと思っている。
暑くなってきたし、部屋に呼びつけるのはちょっと……というだけの理由で、参加者は私とブランカの二人なのだけどね。
そしてお茶会に大切なもの――それは、お茶とお菓子!
ここは仲良くしたい気持ちをアピールするために、私なりに気合いを入れたい部分である。
この国のお菓子は干した果物やナッツ、香辛料を使ったどっしりしたものが多いので、少し毛色の違うお菓子を用意したいと思っているのよね。
そこで、ようやく前世知識の使いどころがやってきたというわけ。
まず、私がブランカのために用意したいと思っているのが『メレンゲクッキー』。
私の貧相なイメージでは『お姫様が食べていそうなお菓子』はダントツで、カラフルでキュートな見た目をしている『マカロン』一択なのだけど……これは作り方がややこしいので、作ってもらうための説明が難しい。
それにねっちりした食感のマカロンより、サクッとした食感とシュワ~とした口どけのメレンゲクッキーの方が、何となくさっぱりしたところのあるブランカっぽく思えるのよね。
固く泡立てた卵白を使うお菓子なので、工夫次第で可愛い形も作れるだろう。
もう一つ考えているのが、『白雪姫』にちなんで『ブールドネージュ』――雪の玉という意味のお菓子で、スノーボールクッキーとも呼ばれている、粉糖をまぶした一口サイズの可愛らしいクッキーだ。
この国にも『シュネーバル』という同じ意味のお菓子があるけれど、こちらはこぶし大の大きな揚げ菓子で、それよりは年末に食べる『キッフェルン』という三日月形のクッキーの方が近いだろう。
こちらも軽い口当たりで、ホロホロと崩れるような食感が特徴である。
「ふぅん。ブランカ姫のイメージに合わせて、お菓子を用意するのね。なかなかやるじゃない」
私の説明を聞くと、フローラもなるほどと頷いてくれた。
「『白雪姫』なので、白っぽいお菓子のつもりなんですが、見栄えのためにもパステルカラーのものも用意できると楽しいですよね」
「えぇー、焼き菓子なんでしょう? 色鮮やかだなんて、ちょっと想像できないわ」
彩りよく並んだスイーツを想像してワクワクする私に、フローラはじっとりとした目を向けてくる。
そっ、そうか……。
確かに、焼き菓子といえば茶色っぽいものが多いので、見知っていなければ流石のフローラにも受け入れ難いのかもしれない。
『映え』を理解してくれそうなフローラだけど、私の説明だけで想像しろというのも酷よね。
「ヒルデ、もしかして勘違いしているかもしれないけど、アタシは別に女性の好みが全て理解できるわけじゃないのよ?」
「えぇっ!? でっ、でも、例えば宝石みたいに綺麗な果物の乗ったタルトとか、可愛い形のクッキーとか、そういうものがあったら素敵! とか、妹姫にあげたい! って思いません?」
「うーん……そりゃあ、強請られれば買ってくるのはやぶさかではないけど、そういうお菓子は見た目だけの場合もあるでしょう? やっぱり、味も大切だと思うのよ」
「あー……。それはまぁ、ソウデスネ」
なるほど。
美は見た目だけじゃない、というのはそういうことなのよね。
綺麗だけど味はあんまり……というものも、確かにある。
私にとって、見ただけで満足して、食べずに残してしまうお菓子の代表が『マジパン』だ。
マジパンというのは、アーモンドの粉末と砂糖を混ぜて練り上げたお菓子である。
マジパンそのものを形作ったお菓子もあれば、冬の風物詩として年末に食べるシュトレンには詰め物として入れられるし、薄く延ばしてケーキを覆うなど、飾りつけに使われることもある。
これは、美味しいものは本当に美味しいけれど、精巧な細工がされているだけで味は微妙、というものも残念ながら存在する。
なので私は、特定の職人が作ったマジパンしか食べないようになってしまった。
うーん……色が可愛くても、味がイメージと違ったらガッカリかも?
ブランカのタイプがわからないので、そもそも私がやりたいだけなのよね。
悩み始めた私を、フローラがなだめる。
「まぁまぁ、王宮の人間が作るわけだし、ヒルデが監修できるんだから、やりたいようにやってみたら? アタシにはイマイチ、ピンと来ていないけど、ブランカ姫は喜ぶかもしれないじゃない」
「そう、ですね……。カラフルは無理でも、白いお菓子というだけで条件は満たせますからね」
はじめから多くを求めすぎるのもいけないか。
何とか持ち直して、それぞれの作り方を思い出していく。
メレンゲクッキーは焼きメレンゲとも言われる、要は泡立てた卵白を焼いたお菓子である。
卵白に砂糖を少しずつ加え、角が経つまで泡立てて、可愛く絞って低温のオーブンで乾燥させるように焼くだけと、工程はかなりシンプル。
メレンゲを泡立てるのが難関かもしれないけど、それは厨房におまかせするしかない。
今回考えているのはアーモンドの粉末も入れたバージョンで、白っぽく仕上げたいので、皮を剥いたアーモンドを使用する。
甘くてサクシュワな食感に、アーモンドの風味とコクが追加されるイメージだ。
ブールドネージュは薄力粉にバター、粉糖に加えてこちらもアーモンドの粉末を使う。
こちらは生地の色を気にする必要は無いので、アーモンドの皮を残して風味と香ばしさを強めても良いかもしれない。
それぞれの材料を、練らずに空気を含めるようさっくりと混ぜ合わせる。
そうして作ったクッキー生地を、少し冷やしてから一口大に丸めて焼き、焼きあがった後に粗熱をとってから、粉糖を二回まぶす。
よく似たお菓子もあることだし、こちらは簡単に作れるだろう。
方針が決まれば、料理長を呼んでもらう。
これまでも、食事を改善するために色々とお願いを聞いてもらっているので、彼らのことは信用している。
突然の呼び出しに驚いた様子の料理長に、まずはいつものお礼を言うと大変恐縮されてしまった。
ブランカとお茶会をしたいと思っているので、軽めで可愛いお菓子を作ってほしいという私の希望を伝えると、料理長の表情は一気に仕事モードになった。
材料や作り方を書き出した紙を渡して、詳細を話す。
お茶会の日程を尋ねられたので、ブランカの都合次第だけど一週間程度あれば大丈夫か聞けば、自信に溢れた様子で肯定される。
これなら、お菓子は大丈夫だろう。
その後はブランカへ招待状を出したり、フローラと会場のしつらえや服装について相談して過ごす。
連日届く料理長からの試作お菓子の味見をして、準備を進めていると――私の元に、一人の女性が訪ねてきた。




