成果報告会 2
「なんだか可哀想だから、アタシもこれでお終いにしておくわね」
恨めしそうに水をチビチビと口にする私に配慮してくれたのか、フローラは飲みきったグラスと一緒にボトルやおつまみを私から見えない場所に移動させる。
晩酌タイムを中断させてしまって申し訳ない気持ちが湧くけれど、ヨダレを我慢できないかもしれないので、そうしてもらって正直助かった。
フローラは私の支度に、もっと時間がかかるものと思っていたらしい。
確かに、侍女を呼んであれこれしていたら、軽く三倍は時間がかかっただろう。
王妃としてお世話されるのも、なかなか大変なのだ。
「それで、今夜のことだけど……アタシが思うに、なかなか悪くない結果だったんじゃないかと思うわ。しっかり爪痕を残してきたみたいだし」
「わぁ……! 反省会なので、もっと怒られるのかと思っていました」
「アンタって……。あのね、アタシだって何にでも文句付けてるわけじゃないのよ? 第一、今日はアタシの完全プロデュースの力があったんだから、ある程度注目を浴びるのは当然でしょうが!」
「はい、その通りでゴザイマス」
チッチッと指を振るフローラに、ははぁ! と頭を下げる。
悪目立ちしていたころの注目度もなかなかのものだったけど、今日はその比ではなかった。
話しかけてくる人も今までは少なかったので、もしかすると今夜は人生で一番人と会話したかもしれない。
「アンタの着たドレスや飾りも好評だったんでしょう? 説明もちゃんとできていたみたいだし、ファッションに敏感な夫人や令嬢が真似すれば、あっという間に流行するに違いないわ。今後、アンタは今まで以上に注目を浴びることになる。そうすれば……アンタを舐める不遜な輩も減るでしょう」
フローラの言葉に、ハッとする。
「こう言ってはなんだけど、人間、良くも悪くも見た目は大切よ。正しく使えば、優れた武器にもなるわ。それを捨て去ってはいないのだと、アンタは今日そのことをアピールしてきたの」
「そう、なんですね……」
「公爵夫人のような人もいるでしょうけど……それに関しても、アンタは上手く立ち回ったと思う。案外、嫌味を言う素質があるじゃない」
褒められてもあんまり嬉しくないのは、何故かしら。
おかしいなぁ、毒舌なフローラの真似をしたつもりだったんだけど……。
「最終的に彼女が自爆したのは、仕方ないわ。会話の切り時を見極めるのは今後の課題ね。ブランカ姫が来なければ、また大事になっていたかもしれないもの」
「彼女がどうして顔を出したのか、さっきまで不思議だったんですが……そう思って来てくれたのかもしれませんね」
気づかないところで助けられていたんだろう。
……それにしては、ブランカ自身のストレス発散的な部分が大きかったように思うけれど。
「だけど、ブランカ姫の言ったことで一つ間違っていることがあるわ」
「何ですか?」
そんな変なこと、言っていたかしら。
「公爵夫人を嫌っているのはわかるけど、『湯水のように美容にお金を使っているから美人』というのは大間違いよ! それはまだ若くて生まれ持った美貌があるが故の傲慢だわ。お金をかけたから美しくなれるわけじゃないし、使えるものは何だって使って美しくあろうという努力は尊ぶべきよ! 若い娘の生き血をどうこうとか、そういう危なくて怪しいものでないのなら、好きなだけじゃぶじゃぶ使えば良いのよ!」
熱く語って、フローラはフンと鼻を鳴らした。
「とはいえ……気に入らない小娘ではあるけど、ヒルデが言うように、ブランカ姫が王妃を認めたというのは大きいと思うの。『白雪姫』はこっちの国でも美姫だと名高いわ。そんな彼女が褒めるというのは名誉なことだし、何よりアンタの義娘でしょう? 不仲だという噂を払拭するチャンスじゃないかしら」
ブランカとの不仲は噂じゃなくて、事実だったんだけど……。
だけど最近のブランカを見ていると、これからは違う関係になれそうな、そんな気はしている。
「望み薄だったルシャード陛下の反応も、悪いものではなかったようだし。アンタには見た目のせいで態度が変わったように見えるのかもしれないけど、少なくとも他人の変化に無頓着な人ではないってことでしょう?」
「まぁ、複雑な気持ちではありますが……褒められたことに違いはないですね」
フッと陰気に笑うと、フローラは眉を下げる。
私があの人を嫌っていることには気づいているでしょうに、気を遣って触れてくることは無い。
私たちは何でも聞いてきて、何でも話しているようで、互いに触れないようにしている部分も多いのだ。
空気を変えるように、フローラは大きく咳払いした。
真剣な眼差しに、きっとこれが本題なのだと察する。
「周囲の反応は良いとして……初めて会った時からそうだけど、ヒルデは、高位貴族の娘にしては自信というか自尊心というか、そういうのが足りていないのよ。アタシを見習えとは言わないけど、もっと自分を認めても良いんじゃないかしら? アタシの腕を信じてくれているのはわかるけど、今夜のことだって、ヒルデ自身が頑張った結果なんだから、もっと胸を張っても良いくらいよ」
「うっ……」
フローラの言ったことは耳の痛い話で……正直、思い当たるところがあり過ぎる。
理由はわかっているつもりだ。
だけど、改善策が無い。
素直に話して、フローラに笑い飛ばしてもらえば、もしかしたら気持ちが楽になるのかしら?
でも……恐れを口にするのは、怖い。
逡巡する間、フローラは根気強く私の言葉を待ってくれている。
意を決して口を開きかけたところで――ノックの音が、部屋に響いた。




