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準備期間



次に王宮で開かれる、ルシャード陛下の誕生日パーティーに向けた準備は着々と進んでいた。



ドレスに使う生地サンプルを取り寄せた後は、フローラの描き起こしたデザイン画を丁寧に写し、専属のお針子チームに渡すと心底驚かれたけれど、新しいドレス作りを快諾してもらうことができた。

大層嬉しそうな様子から、きっと彼女たちも、ゴテゴテと派手なだけのドレスを作るのは不服だったのだろうと察せられる。


王宮内の仕立て部署なので、優先的に作ってもらえるため余裕のある仕上がり日になるとのこと。

私も追加で要望を付け加えさせてもらったけれど、私が少しずつ主張し始めたことを、喜んでくれているようだった。

「必ず素晴らしい品を作ってみせます!」と意気込みも十分なので、きっと良いものができると確信している。



ドレスに加えて飾り一式――ネックレスにイヤリング、指輪に髪飾りも、新しいものを作ることになった。


これらは時間も無いので、今持っているものでも良くないかとフローラに言ってみたけれど、「アンタが新しく生まれ変わった姿を見せつける場なんだから、妥協なんてしないわよ」とこだわりを主張されたので、従うしかなかった。

短すぎる期限だけれど、デザインの割に凝った細工の少ないシンプルな作りなので、予定としてはなんとか間に合うだろうというギリギリのラインに納まった。

職人さんたちには無理を押し付けてしまったけれど……ここが腕の見せどころだと、頑張ってもらうしかない。



食事の改善に室内でもできる運動と、身体づくりも順調で、痩せこけていた顔が少しマシになり始めている。

食事を運んでくる侍女にも、最近血色が良いと褒められた。


新しいスキンケア用品も肌に合ったようで、フローラ特製パックと併用して、カサカサお肌からちょっぴりツルスベお肌に近づいている気がしなくもない。

健康生活のおかげで、目の下のクマがかなり薄くなったのが大きいかも。



そして『タイキョッ・ケーン』の次に私がフローラから指導を受けているのは、メイクだ。


何がなんだかわからないまま、言われた通りのメイク道具を調達して、毎日指導を受けている。

滑らかで美しく整ったフローラの顔をそのまま教材に使うという贅沢っぷりの中、ゆっくり丁寧に教えてくれるし、根気よく何時間も繰り返すことを何日も続ければ、それなりに慣れてくるというもの。

今回準備しているパーティー用メイクと、ノーメイクがNGな場合用のナチュラルメイクの二パターンだけ練習することで、フローラに及第点をもらえる一歩手前というところまで来ている。


メイク落としもすっかり手慣れたものである。



……いつまでも慣れないのは、メイク後のフローラの完成度だろうか。


美人がメイクをすると、性別に関係無く心臓に悪い。

私に似合うように考えられたメイクのはずなのに、絶妙に似合っていて危ないほどの色気を醸し出している。

素材の違いを突きつけられているようで、どれほどメイクの腕を磨いてもあの境地まではとても到達できそうもない。



そもそも何故普段ノーメイクのフローラが、こんなにもメイクの知識と技術を持っているのかといえば、ひとえに妹姫のためだったらしい。

フローラに妹がいたということも初耳だったけれど、聞いている感じ、どうやらシスコンの気配。


元々は可愛い妹姫のためにメイクの勉強を始めたところを、凝り性な性格も相まって極めてしまったのですって。


兄妹仲が良いのは良いことだと思いつつ、魔法の鏡が作られるきっかけとなった過去の兄妹たちの悲劇を思い出したりして、少し複雑な気持ちになったりもした。


……うん、クライノート王家は家族愛が強いっていうことで、納得しておこうと思う。

こっちのシュヴァルツ王家とは真逆というか、雲泥の差過ぎてなんだか……だけど、お家事情はそれぞれなので、羨んでも仕方ない。


以前はフローラにべったりだったという妹さんも今ではすっかり兄離れしたということで、極めたスキルを再び発揮することができると、どこか嬉しそうにしているフローラを見て、私も手間をかけさせっぱなしの身なので、少しホッとしたり。


私にも兄が二人ほどいるけれど、フローラたちの仲の良い兄妹トークを聞いてもあまり自分の兄に会いたいという気持ちは湧かないのが……悲しいような、寂しいような。

きっとそれぞれ好きなように過ごしているだろうから、あえて呼び立てたいとも思わないし。


というか……会ったところで、何を話せば良いのかわからない。


そんな私の兄妹事情を話すと、フローラは「まぁ、そういう場合もあるわよ。貴族の兄弟関係なんて、跡目争いのライバルみたいなところもあるし、それを考えたらよっぽどマシじゃない? というか、ウチのほうがよっぽど特殊だから、気にしない方が良いわ」と慰めてくれた。



そしてこの美人オネェことフローラは、実のところクライノート王国の王子様で魔法師団団長というトンデモ肩書きお化けなのに、ニート生活を送る私に付き合ってくれる時間が何故あるのか不思議だったけれど、どうやら貴重な休暇を使ってくれていたということまで判明した。

「アタシがやりたいんだから、良いのよ」と言っていたけれど、当初予定していた休暇期間を延長した後、副団長さんに泣きつかれて半日は職場に顔を出すという時短スタイルでの出勤を始めている。



かくいう私も、王妃の仕事を放置しすぎるわけにはいかず、自室内で仕事を再開していた。


とはいえ、周りが優秀なおかげで元々確認してOKを出すだけの簡単なものばかりなので、溜まっていた分さえ片づけてしまえば、日々の仕事量は数時間で終わる程度のもの。

たったこれだけのことでニート認定を免れられるのは、お飾り王妃の数少ない良いところと言えるだろう。


女主人の仕事を私にさせたくないのか、パーティーの仕切りなどはブランカが率先して持って行ってくれているし、こう言ってはなんだけど、正直随分と助かっている。


もうすぐ開かれるルシャード陛下の誕生日パーティーも、取り仕切っているのはブランカである。



王宮内が慌ただしさを増す中、パーティーの準備で忙しくしているはずのブランカが私の元を訪れたのは、陛下の誕生日まであと一週間を切った、ある日の昼下がりのことだった。



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