一話 ゆうしゃさまはしあわせにくらしましたとさ
「ハァ...ハァ...クッ! しぶといやつめ」
剣と剣がぶつかり合い火花を散らし、二人の身を削る。
「グゥ...ッ! 冒険者、いや勇者とでも呼んでやるべきか...この我をここまで追い詰めるとは...貴様ァ何者だ?」
気が飛びそうになる程の痛みと殺気の中、これまでの事を思い出す。
志し半ば死んで逝った仲間達。そして今は亡き最愛の家族。
辛い事しかなかったが目の前の敵ーーそう魔王を倒せばやっと終わる。全てから解放される。
俺ーールー・グラデウスは冒険者だ。生まれつき強かったという事以外は普通の男だ。
幼き頃、魔族に村を焼かれ一人になり国に拾われ魔を討つ冒険者として育てられた。
ただひたすらに技を磨き、敵を討つ。ただそれだけの人生。いつしか俺は最強の冒険者と呼ばれていた。
王国に仇なす敵を倒す為だけモノクロな日々。
しかし、いつからだろうか。そんな俺にも仲間が出来た。
国の養成所の先輩にして魔法の師デウス。
互いを高め合う好敵手にして親友、武王カイ。
旅の途中で無理矢理パーティーに入り、将来を誓い合った恋人、剣豪カリナ。
皆良いヤツだった。共に冒険し、酸いも甘いも分かち合った大切な友。しかし、皆死んでしまった。
始めに死んだのはカイだった。彼の祖国を救う為皆で立ち向かったがダメだった。残ったのは親友の亡骸と滅びた国。援軍を呼ぶためデウスが王国に掛け合ったが無駄だった。カイの悲しそうな死に顔が今でも脳裏にべったりとへばり着いている。
二番目はデウス。彼は生まれつき身体が弱く、旅の途中病に倒れてしまった。治す為大教会に行ったが金が足りないと突き飛ばされ。デウスは死んだ。王国に文を飛ばしたが返事は来なかった。
デウス、最後の最後まで俺を弟子と呼び時には兄として慈しんでくれた。
最後はカリナ。サムライと呼ばれる一族の生き残りであった彼女。全てが終わったら二人で静かな場所で暮らそう。そう約束したが、彼女は俺を庇い死んだ。強力な魔法だった。残ったのは少ない金を必死に工面して買った質素なエンゲージリングの着いた薬指だけ。
皆が居なくなった後残されたのは、俺だけだった。
「俺は...俺達は勝たねばならない。死んでいった仲間の為に。だから死んでくれ、魔王!!!」
剣に魔力が集まり巨大な光剣となり、魔王の胸を貫いた。確かな手応え、迸る魔力が魔王を焼き滅ぼす。
「グッ!!!? グァァァ!!!! まさか...まさか、人間に...人間ごときにこの我が...フフッ、見ていた、ぞ...哀れな勇者よ。全、てを...恨...し、...で...」
「やった...あぁ。疲れた...」
魔王が塵となり消えていく。
俺は達成感よりも疲れが勝り、どさりと重いものが落ちるように地面に腰をつく。
「長かったな。兄さん...カイ...カリナぁ...俺やったよ。.........はぁ、帰るかな...」
ーーーどこに?
「王国。嫌だな...」
剣を引き摺りとぼとぼと歩く。右手に仲間達の遺品を携えて。
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豪華絢爛な王城、謁見の間。俺は身体に掘られた養成所の紋章を見せ通された。
王に会うのは久しぶりだ。養成所で生き残り同時期に魔王討伐に出された奴らはもう帰っているだろうか?
お互い同じ釜の飯を食い、励ましあった大切な仲間達だ。旅の途中出会い協力し合った事もあった。今から会うのが楽しみだ。でも...デウスの事はなんて説明すればよいだろうか。
かつての仲間達に想いを巡らせていると、王が現れた。安全な城内でブクブクと太り荒く呼吸を繰り返しながら玉座に座り俺を見下ろす。
「まずはよくやった。という言うべきだなルー・グラデウスよ。フンッ、孤児のごみでも使い物にはなるのだな」
「クククッ。まったくでございますな我が王よ。これは養成所の教官に褒美が必要ですなぁ」
嫌な奴らだ。そもそも魔族との戦いもお前らが領土欲しさに魔族に喧嘩を売ったのが始まりだろうに。
「ん~? そういえばお前と一緒に旅立った乞食がおらぬなぁ? 全くこの我に軍を寄越せだの、金を寄越せだの、浅ましき限りを尽くしおって! 死んだのならせいせいするわい!」
「そういえば、王よ。滅んだ近隣国無事我らの土地となりましたぞ! いや~魔族側に嘘の情報を送って、我らの消耗なく滅ぼし吸収する。なんともなんとも、王は名君でございますなぁ♪」
「...グッ!」
「にょ~ほほほほ! そうであろうそうであろう! ん? どうしたルーよ? 震えおって、そうか腹が減っておるのだな。よいぞよいぞ、我は今気分がいい。ほれこれで飯でも食ってくるがよい。後はもう来なくてよいからな。...そうだな~魔王討伐は我の息子が成し遂げたという事にしよう! そうすれば国民からの支持もうなぎ登りというものよ! どうじゃ大臣?」
「なんと! それは素晴らしいお考え!! そういう事だルーよ。ご苦労だったな下がってよいぞ。ほれ、早う」
そうか。貴様らの下らない下卑た欲のせいで...デウスは、カイは。カリナは...ッ!
身体を突き破りそうな程の憎悪が、身体の内側から溢れ出す。しかし、ここで暴れれば刻まれた紋章に籠められた呪いが発動し俺は確実に死ぬ。今は堪えねば。
「.........わかりました」
俺は城を出た。なんだったのだろうか俺達の冒険は、仲間達の死は...そうだ、せめて養成所の同期達には会おう。
重い足取りで養成所へと向かった。そこで見たのは、余りにも辛い光景だった。
「むっ? お前はナンバー557。久しいな。やはり最高傑作だったお前が成し遂げた訳だ。ふむふむ...やはり私の育成プログラムに狂いなかった!!!」
養成所の教官が高笑いをあげる。
養成所には身寄りの無い者、金が無く捨てられた者、親から売られた者、犯罪者等多くの若者が集められ、1ヶ月危険な魔物達が蔓延るジャングルに投げ出され振るいに掛けられる。そして生き残った者が、身体に紋章を刻まれ、長い育成プログラムによる強化を行われるのだ。そして最終的に生き残った者が俺とデウスを含め6人。二人一組でチームを組み任務に当たる事になる。
「久しぶりです。教官、今日は魔王討伐の報告と同期の4人に会いにきました。もう皆帰ってきましたか?」
「うーむ。やつらには後程。それよりもデウスが居ないな? そうか死んだか! ふぅむ、やはり身体の弱いものはダメだな。やつは頭がキレるから期待していたが...まあ所詮は消耗品、嘆いても仕方あるまい。よし、ついてくるがよい」
ここでは俺達はただの物だ。国に従い、国の為に戦う強化兵。
教官の後ろを着いて行き、施設のに入る。そこには...
「...え? 嘘だ。嘘だろ? リン! サトル! ゴータン! ミーシャ!! うそ...皆まで...」
リン、明るくていいやつだった。辛い毎日だったがお前の明るさが俺達にとっては太陽みたいだった、だがそんなリンには下半身がなかった。
サトル、お前とはよく競いあったな。飯を作るのが得意でサバイバル演習の時は皆お前の作る飯を楽しみにしてた、そんなサトルの身体は青ざめ白くなっていて動かない。
ゴータン、むさ苦しいやつだったがいつも俺達を引っ張ってくれた。危ない時は身を呈して守ってくれるような頼れるもう一人の兄貴だった。そんなゴータンの大きな身体にはバラバラになりお気に入りだったガンレッドを嵌めた見覚えのある手だけ。
ミーシャ、実力はあるのにいつもおどおどしててイライラしてた時当たったりしてゴメンな。本当はもっと早くに謝りたかったんだ。でももうそれは出来ない。ミーシャの身体には無数の刺し傷があり所々部位が欠損してる。
皆居なくなっちゃった。
「彼らもなかなか優秀だったがな。途中で挫折し王都に戻ってきた臆病者達だ。だが、そんな失敗作でも実験動物にはなる。このデータを元に次はもっと強い兵士を作れる。ん? どうしたナンバー557よ」
「...どうして...どうしてだよ」
ペタリとヘタリ込み、涙を流す。俺は、俺達はなんのために産まれてきたんだ?
「心が壊れたか。仕方ない、新しい実験をしようと思っていたが情けだ。おい、こいつを街の外にでも捨てておけ。なあに身投げでもするだろうさ」
俺は街の外へと放り出された。抵抗しようとしたが、紋章から激しい痛みが走りなすがまま運ばれた。
ぽつりぽつりと雨がふる。
寒いな。腹も減った。
「どうしてかな...」
雨が強くなる。
「むかし...む、か...ゆうしゃさまはなかまとともにまおうをたおしまし...そし...てしあ、せにしあわせにくら...しま、たとさ...」
昔母に読んで貰った絵本。心の中で救われるんじゃないかそう思っていた。しかし、現実は...
「もう、疲れたよ...」
俺は意識を手放した。




