第四章「仮面の男」
………ーー、……!
「………、ん」
誰かの叫び声で目を覚ます。
ひび割れ、壊れかけの窓から射し込む光が顔を照らし続けていて少しだけ眩しかった。
「[…はよ。よく眠れたか?]」
「ああ。ベッドがもう少し柔らかければもっとよく眠れたけどな」
ベッドから降りて、欠伸をしながら扉前に移動する。
上半分が壊れた扉のドアノブを捻って部屋の外に出て、長廊下を挟んだ反対側にある部屋の前まで足を動かした。
声は、この部屋の中から聞こえてきていた。
聞き耳を立てると、その声が先程よりも少しだけよく聞こえてくる。
「しらばっくれてんじゃねぇぞ。調べは既についてんだよ!」
「………何故そう言いきれるんだ?」
「へっ。…こっちには有能な人材が居るんだよ。そっちと違ってな」
「………………」
……………?
何の話をしてるんだ?
眉をひそめて、頭の上に"?"を浮かべる。
すると、そこで背後から声を掛けられた。
部屋の中の声に集中していた俺は、その声に驚いてビクッと肩を震わせる。
振り向くと、そこに居たのはいつぞやの仮面の男。
シムは男を見て声を上げて、俺は目を見開いた。
「こんな所で何をしているかと思えば。随分と歪んだ性格をしているんだな」
「[おまっ、何で…!ってか急に声掛けんなビビる!]」
「………それはすまなかった」
素直に謝ってくれる。
まさか謝られるとは思ってなかったようで、シムは呆気に取られた。
何故ここに?と聞けば、こほんと男は咳払いをして腰に手を当てる。
「お前たちを外に案内しろと言われた。おとなしくついてこい」
言って、男は踵を返して俺たちに背を向ける。
外に案内する?
帰らせてくれるのか?
「…なぁ、あの部屋に居るのって」
帰らせてくれるって言うのなら素直に従おう。
俺は男の隣まで走っていき、歩きながら質問する。
それに男は前を向いたまま"知る必要はない"とはっきり口にした。
なんとも愛想のない返答だと思い、シムは眉をひそめる。
「[なんだよ。教えてくれたっていいじゃねぇか]」
「………………」
言うと、言葉はないが顔を此方に向けて男は俺を見つめる。
少しだけ威圧を感じる。
これは、睨まれてるのだろうか。
いや、何で俺が睨まれなきゃいけないんだろう。と、俺は眉を下げて口元を引きつらせる。
まぁ、これはしょうがない。シムは俺の中に居るわけだし。
他人から見れば、シムの言葉も俺の言葉も同じわけだし。
複雑だけど。
+
「これを渡しておく」
「………これは?」
建物の外へと出て、男は俺に何かを渡してきた。
受け取ると、それは鍵のようで俺は首を傾げる。
何処の鍵だ?
「ショッピングモールの鍵だ。あとでそこに行くから待っていろ」
「は…?」
男は言う。
もう用はない。と、踵を返して戻ろうとするので、俺は慌てて男を止めて"何で"と聞いた。
「…こんな所で会うとは思わなかったからな。予定変更だ」
「は…?」
予定、変更…?
「私はお前に興味がある。それに、私にはお前が必要なんだ」
「……………」
興味がある、って。
男に興味持たれても返答に困る。
そして男は、再び"待っていろ"と言って建物の中へ消えていった。
鍵を見つめて、頭を搔く。
ショッピングモールって、確かここからめっちゃ遠くなかったか?
「[おい、どうするよ?]」
シムが聞いてくる。
「うーん。…まぁ、行かないっていう選択肢もあるけど」
行かなきゃ、なんか面倒事になりそうな気がする。
鍵も受け取ってしまったし、あんまり乗り気じゃないけど行くしかない。
そう考えて、俺は溜め息を吐いて建物から離れた。