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第二章「ランドマーク」

 





「シム!」

「[来るぜ!前からのは右肩!後ろからのはデコ!上からのは、腹だ!]」





 シムの声を聞きながら、襲ってくる異形を攻撃する。


 指示に従って異形の弱点である青く光る箇所を刀で貫けば、弱点を貫かれた異形は一瞬にしてその場から姿を消した。



 死滅、と言った方がいいか。



「………、」



 刀に付着した異形の血を振り払う。

 足下に落ちた血も、貫かれた異形と同様に一瞬にして消滅した。


 はぁ。と息を吐いて、刀を戻す。



 異形の奴らが俺たちを襲ってくる理由は1つ。

 俺たちが異質だから。


 俺にとって奴らが異質なように、奴らにとっても俺は異質。だから、排除しようとする。



 互いに排除したいと思っているのなら、その方法は戦って殺すしかない。





「[うっし!一撃必殺!さっすが俺!]」

「やったのは俺だ。お前じゃない」

「[今のは、俺の指示に最高って意味だ。…まぁ、お前もよくやったよ。褒めてやる!]」

「…………」




 はぁ、と溜め息。


 異質を殺しても、素直には喜べない。

 少し前までは普通に人間に見えていた奴らだ。



 近くに襲ってくる異形が居ないかを確認して、再びランドマーク目指して歩き始める。


 分かれ道を右に。

 シムが言うには、こっちの道の方が近いのだという。

 初めて見る道なのに何故わかるんだ。



 そうして、ようやくたどり着いたランドマーク。

 街の中心に位置している大きな建物。

 ビル、と呼ばれているそれは他の建物とは違って遥か上空にまで高く背を伸ばしていた。


 上を向きすぎて、首が痛い。





「[へぇ、これがこの街の…。なんだか目が死にそうだ]」

「最上階が見えない。…こんなものまで世界には存在してるんだな」



 少なくとも、この旅に出る前の俺が住んでいた町にはこんなに大きな建物はなかった。

 ランドマークはあったけど、こんなに大きなものではなく、小さな、本当に小さな時計塔だ。


 一体、中はどうなっているのだろう。




「[よし。中に入るぞ!]」

「え、この中に?…見るからにボロボロなんだけど、大丈夫か?」

「[ボロ…?あー、そうか。お前にはそう見えてんだよな。大丈夫だぜ。中には入れる]」



 シムの見ている建物の外観と、俺の見ている建物の外観は全然違う。


 俺の目に映っているのは見るからにボロボロな今にも崩れそうな見た目の建物で、シムの目に映っているのはとても綺麗な作りたての建物。



 シムに言われている事だけど、この世界は俺が見ている世界の方が"本物"らしい。だから、この建物は実際には俺が見ている方が真実なんだ。




「[………、何階まであるんだ?]」



 建物の中に入り、吹き抜けになっている天井を見る。

 所々にある崩壊の跡とそこに巻き付いた蔦が、この建物がいかに古くから存在しているかをわからせてくれる。


 幸い、エレベーターは電気が通っているのか動いてくれているようで、俺たちはそこに乗り、最上階を目指した。




 全面ガラス張りのエレベーター。

 全体的に少しひび割れてはいるけど、衝撃を与えなければ割れるという事はないだろう。



「[…なぁ。このエレベーター、途中で止まったり落ちたりしないよな?俺、高い所が苦手だからちょっと怖ぇよ]」

「さあな。見た目はあれだけど造りはしっかりしてるみたいだから大丈夫だと思うぞ」

「[……………]」



 ぶるぶると左手と左足が震える。


 エレベーターが最上階の1歩手前、下の階で止まった。

 扉が開いてエレベーターから出れば、右と左に分かれた長廊下が続く。

 前方には上へと行ける階段。


 どうやら、エレベーターで行けるのはこの階までらしい。




「最上階には歩いていけって事か」

「[うわー、高ぇ…。ここまで一瞬で昇ってきたぞ。エレベーターってすげぇな]」



 上まで続く階段を見る。


 しかし、そこにある階段は途中で崩れていた。

 頑張れば登れない事もない。



「[ん、どした?]」

「階段が崩れてる」

「階段?階段なんて何処にあるんだ?」

「…見えてないのか?」



 どうやらシムの目には前方にある階段は見えていないらしい。

 他に行けない所はないかと、首を動かす。


 階段の向かいにあるコンクリートの壁、右下部分が崩れて穴が出来ている。

 そこから風が吹いてきていて少しだけ髪を揺らした。



「[何してんだ?]」

「いや、ここから出られないかなって」

「[出られないかなって…。俺にはお前が今何やってるかさっぱりなんだが]」



 一面コンクリだから。


 シムの言葉は無視して、崩れた穴から顔を出す。

 再び首を動かし辺りを見れば、右前方に上へと続く足場があった。



 木の板で簡易的に作られたであろう足場。


 歩いて、大丈夫だよな…。




「…………」



 木の板の足場は少し歩いた所で緩やかな坂になっていてその奥には外付けの階段。

 足場はその階段と繋がっているのだろう。


 意を決して、俺は壁に手を添えながら足場に乗っかる。

 突然視界が外に変わったからか、シムが驚きの声を上げた。




「[!?、え、ちょ、お前、ここ外じゃねーか!…ってか何処歩いてんの!?]」



 シムには足場が見えていないだろうから、今俺が歩いているのは空中だと思っている。


 人間が空など歩けるわけがないから、この光景は明らかにおかしいだろうな。



「[え、イオお前今空歩いてんの?何で!?お前とうとう空を歩けるほど人間辞めたか!?]」

「シムうるさい」



 ギャーギャー騒がれると足を踏み外して最悪挽き肉になる。

 時折、ギシギシと板が鳴って凄く怖かった。


 高所恐怖症じゃなくても叫ばずにはいられないな、これは。




「……っ、と。ふぃ、ちょっと寿命縮んだ…っ!」



 木の板を渡りきって、外付けの階段へ。

 どきどきと鳴る心臓を宥めながら階段を登り、最上階の廊下へ続く扉を開けた。


 立て付けが悪い扉で、開けるのに少しだけ苦労した。

 壊した方が早かったと思える。




「[…?、何だ?何もねぇな。ただ廊下が続いてるだけか?]」



 シムが言う。


 確かにシムの言う通り、何もない。

 ただ、奥へと続く廊下があるだけ。



「……………」



 息を呑んで、足を1歩動かす。


 その時、突然背後から声がした。

 動くな。と籠った声で、その声を聞いた俺は足を止めて後ろを振り向く。



 そこには、仮面を被ったフードの人物が居た。

 声からして男。


 フードの男は俺の顔を見つめ、言葉を続ける。




「ここへ、何しに来た?」

「…何しにって、」

「[なんだこいつ?仮面なんて被って、怪しい奴だ]」

「シム黙れ」

「………、もう一度聞く。ここへ何しに来た?」



 もう一度、男が聞く。


 散歩だ。と答えると男は訝しげに眉をひそめ、少しだけ俺に近付いた。



「ここはお前の来る場所じゃない。さっさと帰れ」

「は?」



 そう言うと、男は俺を通り越して廊下の先へ。

 瞬きをする一瞬のうちに奥へと歩いていった男に驚きつつも、俺は男を追いかけ廊下を走った。


 見失うはずがない一本道。

 だが俺は男を見失い、小さく舌打ちをする。



「[何処いった?あの仮面野郎?]」

「……………」



 なんだったんだ。と思いつつ息を吐く。


 するとそこで再び背後から声がした。今度は男のものより少しだけ高い声。



 振り向けば、そこには灰色のパーカーを着た異形が武器を構えながら立っていた。





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