第5話 幸運と天才(前編)
私、横田直子と熊田涼子は、黒田真紀久と四里木で合流した。
「直子、涼子さん。お願いします。もし、塔子ちゃんに会ったら最初に僕が話しかけます。直子たちは後で、来ていただけないでしょうか。」
私たちは考えた。例え彼が塔子と知り合いだったとしても、彼女の方が忘れているかもしれない。また、彼女は馬に乗っていて、攻撃した来るとひとたまりもなかったりする。考えていると、熊田さんが肩を叩いていった。
「大丈夫だ!真紀久は運が一番いいから!」
熊田さんはそう言った。しかし、彼らの目は本気だった。
「分かったわ。じゃあ私たちは近くから見張らせて。何かあったときには図具に向かうから。」
「わかった!」
そして、私たちは熊田さんの案内を元に高田塔子のいる所に向かった。
高田塔子の自宅の前
案内が終わった。そこには馬に乗っていない高田塔子がいた。実際に見ると彼女は髪の艶、スタイルが良く、うわっ!めっちゃ美人!と思ってしまった。
「塔子ちゃんがいる、じゃあ行ってくるね。」
「気を付けてね。」
黒田君が塔子の方に向かって話しかけた。
「久しぶり、塔子ちゃん!」
声をかけられて、塔子は振り向いた。
「どちら様でしょうか?」
「僕だよ、黒田真紀久だよ。」
「黒田・・・、ごめんなさい覚えていませんわ。」
不機嫌そうな顔をする塔子。しかし、彼はまだ話しかける。
「いや、あったはずだよ、昔公園で遊んだじゃん。」
「覚えていません。」
「そのまま仲良くなって、チューしたじゃん!」
「あれは転んであなたのおでこにキスしちゃっただけです!」
塔子は顔が赤くして、必死に一部否定した。
黒田君も手を後ろにして、顔を赤くして、もじもじした。
「チューしたことは覚えていたんだね・・・。」
「うるさいですよ・・・、馬鹿・・・。」
どうやらお互いに覚えていたようだ。
「黒田君、いったい何の用ですか?」
「あっ、そうそう。これを届けに来た。」
黒田君は斜め掛けバックからキーホルダーを取り出した。
「これ、落とし物だよ。」
塔子はキーホルダーを受け取った。
「私のキーホルダー、ありがとうございます。」
キーホルダーを受け取って、塔子は微笑んだ。
そして、黒田君は真面目な顔で質問した。
「塔子ちゃん、聞きたいことがあるんだ。そのキーホルダーは首無し馬が乗っていた騎士甲冑の人が落としたんだ。もしかして、あの人は君なのかな?」
質問をされると、塔子は微笑んだ顔から真剣な顔に変えた。
「ストレートに聞くのですね。はい、私があの騎士甲冑です。」
そういうと、高田塔子は騎士甲冑の姿に変わり、首無し馬を地面から召喚して乗った。
黒田君は真面目な顔から落ち込んだ顔になって顔を下げた。しかし、彼はまた顔を上げて塔子に話しかけた。
「ねぇ、どうして人を馬で踏みつけるの?」
「憎んでいるんですよ。妬む凡人に。」
「どういう事なんだい?あの時の君は、頂点を取る事を決心したと言っていたじゃないか。」
「実際はそうでしたわ。現に記録をいっぱい残していますから。ですが、天性の才能を持っていることでたくさんの人から妬まれていますの。」
高田塔子は話をした。彼女は天才だった。初めての事でも、難しいことでも、難なくこなしてしまう少女だった。それはプロも顔負けで、大会では初出場で優勝してしまうほどの才能の持ち主だった。そして、彼女は謙虚な心を持っておいた。だかしかし、努力で勝ち取ったもの、才能を持たぬものからは妬まれ嫌われていた。
彼女は、彼ら彼女から批難、嫌がらせ、出場禁止、最悪の時には殺人未遂にまで至るまでの出来事があった。
それ故に彼女は天才以外の人間を憎むようになってしまった。
「なんで、優秀な方が非難されるのでしょうか!努力もしないで頂点に立つことはなぜ許されないのですか!なんで、出る杭は打たれるのですか!エジソンの天才は99%の努力と1%の閃きという事はじゃあ私のような天性の才能は何!転生そんなそんなことを疑問に思っていくうちに憎しみが出てきた・・・。だから私は・・・、凡人だけを踏みつぶしているのですよ!」
彼女は涙を流しながら怒りを露わにしていた。
私はそんなことがあったのですね、としか心の中でしか言えなかった。
しかし、黒田君は彼女にこう答えた。
「凡人だけを踏み付けかったの?」
「どういうことですか?」
「僕はね、思ったんだ。君は凡人を踏み付けるだけが目的なのかなって?」
「それ以外に何があるのですか!?」
「自分と同じ天性の才能を探すことも目的なんじゃないかと。」
「はっ!?」
黒田君はあっさりと答えた。そして、そのまま続けた。
「君が憎んでいる人、君を妬んでいる人って、多分努力主義が多いんじゃないかな?」
「ええっ。」
「じゃあ、逆の発想で考えると、君が踏みつけない人、君を妬まなかった人って天性の才能の持ち主だったのかなって。」
「あっ!」
塔子は黒田君の答えにあやふやした。
「塔子ちゃんの願いは自分と同じ天性の才能を持つ人を見つける事じゃないのかな?現に僕と僕の親友も妬まなかったし、踏まれなかったし。」
黒田君の答えに私も半分納得した。
(確かに!そういえば実際黒田君と熊田さんは塔子さんに嫉妬してないわ。でも、私も嫉妬しないというと何が優秀なんだろう?)
自身に疑問を思いつつも影から様子を見続けた。
「塔子ちゃん。君と目を合わせてお話がしたいんだ。お馬さん、君のご主人様とお話がしたい。乗ってもいいかな?」
黒田君は首無し馬に声をかけた。
「何を言っているの!?彼を蹴飛ばして次行きますわよ。」
首無し馬はこの時だけ塔子のいう事を聞かずにしゃがんだ。
「ちょっと!?」
「ありがとう、お馬さん。」
黒田は馬に乗って塔子と対面になった。
「塔子ちゃん、さっきの質問の答えを言うよ。」
「なんですか!」
「優秀が許されない、出る杭が打たれる、努力なしの否定はね、ここは平等を、努力を良しとする場所だからだ。正直なところここでは力を発揮することは難しい。」
「そうなのですか?」
「そうなんだ。だからこそ、世界へ出場するべきだと思うんだ。」
「世界・・・。」
「そう、世界にはギフテッド制や実力主義を良しとする国がある。あと、塔子の天性の才能は何という答え。それは神の領域なんじゃないかな?」
「何を言っているのですか。」
「何を言ってるの?」
私は塔子と同じように突っ込んでしまった。
「エジソンさんの言葉はあくまで彼の結果論だと思う。そもそも天才は天から授かった才能という意味だ。その中でも、君は何でもできる。天才の上位互換、天才以上の何かだと思うよ。」
「そういうものでしょうか?」
「僕にとってはね、それに神の領域なら、狭い国にいるのではなく広い世界で惜しみなく発揮するべきだと思うんだ。」
「惜しみなく・・・ですか・・・。」
「まぁ、この国にも天才はいるからね。この国の天才全員倒した後に世界に行くのもいいけどね。だけど、凡人を踏むのはよくないと思う!」
「真紀久・・・。」
「だって、塔子ちゃんが悪いことをしていると、僕や天才の人は悲しむと思うんだ。」
黒田君が塔子を肯定しつつも、よくないことはよくないと言っていたその時だった。
首無し馬が突如横転した。
「うわぁ!」
「きゃあ!」
「何が起こったの!?」
その時だった、二人の頭上に馬の正面を前に左から剣が通過した。間一髪だった。
幸いにも、二人は落下した高さが低かったため無事だった。
しかし、あまりの出来事に私は思わず出てきてしまった。
「黒田君!」
「直子!どうしたんだ!」
「今頭上に剣が通過した。新手が出たみたい!」
「なんだって!?」
「なんですって!?もしかしてグランドは私を助けるために?」
危機感を全員持つと剣を持った少年が登場した。その少年は金髪碧眼の気品のある服装をしていた。
「まさか、躱されるとは。」
「あれ、この子絵本で見たデビルハンター?」
黒田君の言葉で思い出した。現代にきてすぐに銃刀法違反で捕まっていたはずの少年を。