第9話 見返り美人
7月5日(土) 午前10時 モストホープ社
今週の土曜日も挑戦が始まった。
「本日の選定はこちら、普通にくじで決まます。」
前回の選定がショッキングだったためか、急な温度差を参加者たちは抱いた。
「今回の挑戦者は・・・。」
がさごそがさごそと久慈の箱を漁って引く
「はい!本日の挑戦者は・・・、対価・見返り美人の高井美香さんです!」
高井美香という白いロリータ服を着た10代後半の女の子にスポットライトがあてられた。
「では、高井さん。あなたの望みは何ですか?」
「私の望みは、良いことをした人が報われる世界です。そのために良いことをされた人が恩返しをしたくなる催眠能力が欲しいです。」
郷田元社長「催眠ってちょっと物騒だな・・・。」
「では、こちらのお札のお札をどうぞ。」
「漢字にするとややこしいな。」
アウルートは高井にお札×100枚を渡した。
「このお札は、良いことを行いそうな人に貼ってください。貼られた人は、良いことをされた人に恩返しをしたくなる催眠音波を発生させます。お札が切れたらここに戻って補充をしてください。」
郷田元社長「なんか回りくどいな・・・。」
「それでは、挑戦期間の申告をお願いいたします。」
「期間は1日で。」
「分かりました。それでは高井さん。一日で総額20000円分の恩返しを発生させてください。」
「分かりました!」
「それではスタート!」
高井はモストホープ社から出て行った。
独善・滅私奉公「しかし、見返りを求めるなんて嫌な奴だな。」
滅私奉公を美徳とする参加者がつぶやいた。しかし、アウルートと黒幕は心の中で叫んだ。
((あなたよりまだましだ!))
午前10時30分 中央区デパート前
デパートでセール品を買い逃した私、直子は、どうしようもなく歩いていた。
すると、派手な格好(白いロリータ服)の人が奇行を起こしている人を見つけた。
誠実そうな顔をしたスーツの男の後頭部にお札を貼り付けるという行為だ。
貼り付けたスーツの男は、通行人が落としたハンカチを拾った。そして、落とし主に返した。
すると、その時だった。
スーツの男の目から波動が発生し、落とし主に浴びせた。
落とし主は、お礼としてスーツの男に50円を与えた。
私は、波動を見ておかしいと思い、白ロリータの人を疑った。
「そこの白ロリータの人!挑戦者ですね!」
「はい!私は、高井美香。恩返し推進活動をしています。」
彼女は笑顔で自己紹介をした。
「お札で無理やり恩返しをさせていたように見えたけど?」
「はい!今のは催眠の力で恩返しをさせました。」
笑顔で恐ろしいことを言い切った。この子清々しいわ!
「アウトだよ!あなたの力を解除するわ。」
私はハリセンを出した。
「あなたがハリセンの人ですね。私は邪魔をさせません。」
彼女は突如、きりっとした顔に変わった。手元には金貨を持っていた。武器で使うのだろうか。
その時、高井の後ろからアイアスが高井を斬りかかろうとしていた。
「危ない!」
私は高井を助けるために高井を右に押しのけ、剣を真剣白刃取りしようとした。
しかし、すんでのところでアイアスが剣を止めた。
「ちっ、邪魔をするな!」
さらに、あたりを見渡すと高井は逃げていた。
アイアスもそのままここを離れてしまった。
午前10時40分 中央区大通の喫茶店
高井塔子は、嬉しそうな顔をしていた。自身の計画が上手くいっていたからだ。彼女はさらにお札を人に貼り付けている。
「うんうん、上手くいってる。今の恩返し金額は500円」
お札はもう40人に貼り付けていた。しかし、彼女もまた、恩を知る者だった。
(あのハリセンの人にお礼をしなくちゃ。命を助けてもらったから何を渡そうかな?)
高井は寿命と望みの光が直子のおかげで伸び、彼女に恩返しを考えていた。
命と望みの恩人ならば、それほどの恩返しをしたかった。命と自身の望みを諦めること以外なら、何でも与えたいと思った。
ブランド服・バッグ、高級料理のフルコース、家事代行、旅行、等。
色々考えてみたが、何も思い浮かばなかった。
「こうなったら、直接本人に聞こうかな?」
高井は、さっそく彼女を探しに行った。途中で善行をするかもしれない20人にお札を貼った。
午前11時 中央区 国嶋駅ビル 直子視点
駅ビルの屋上から私は双眼鏡で高井を探していた。
この双眼鏡は黒田君の友達の黒鉄君がおすすめした高性能の双眼鏡だ。スイッチ一つで1100倍まで拡大可能、暗視機能も付いている。めっちゃすげぇなこれ!
探していると、後ろからささやかれるように声をかけられた。
「ハーリセンさん。」
振り向くと、そこには高井ちゃんが立っていた。
「なんでここにいるの?」
「ここから私を探しているところが見えましたよ。」
「えっ、そうなの。じゃあ、何をしに来たの?」
私は警戒した。しかし、高井ちゃんは意外な答えを出した。
「私はあなたに恩を返しに来ました。」
恩を返したがる彼女にしてはらしいと言えばらしいが望みを邪魔しようとした私に対してだと意外だと思った。
「どういうことなの?」
「あなたはデビルハンターから私の命を救ってくれました。だから、あなたに恩返しをしたいのです。命と挑戦を辞退すること以外なら何でもやりますので。」
「例えば、どんなことができるの?」
「高級ブランド物をプレゼントしたり、高級フルコース料理をおごったり、家周りの世話をすることだって可能です。お金はたくさんあるので安心してください。」
私は考えた。ここでお昼を奢らせてその時に情報を聞こうと。ここなら人が多いからアイアスも剣を出すことはできないと。
「ありがとう。じゃあここでお昼ご飯奢ってくれない。」
「えっ、いいのですか?ここで。」
「ここにある中華料理店がいいのよ。」
「う~ん、分かりました。」
高井は不満な顔をしながら私と一緒にビル内に戻った。
11時半 駅ビル5階中華料理店『来々軒』
「お待たせしました。麻婆天津飯です。」
「わぁ、おいしそう。」
「こちらは、麻婆丼でございます。」
「ありがとうございます。」
「では、ごゆっくりどうぞ。」
私は来々軒で麻婆天津飯を注文した。高井ちゃんは麻婆丼を頼んだ。
白ロリータで麻婆丼ってなんかギャップがあるなぁ。私は不意に思った。
「「いただきます。」」
私たちはレンゲをもって食べることにした。
麻婆の辛さと天津飯の卵とご飯の甘さの組み合わせが美味しかった。
「ねぇ、高井ちゃん。」
「何ですか?」
「あなたはどうして恩返しにこだわるの?」
私は直球で質問した。
「人として当たり前の行動を進めているだけです。」
「当たり前の行動かしら・・・。」
「当たり前です!一時期留学していたアメリカではチップがありました。それに昔話でも恩返しをテーマにしたり、動物が人に助けられた恩を返しに行った実話もあるのですよ。浦島太郎はひどいですが。」
「そこは気にするんだ。でも、見返り前提でやっているのかな?私は見返りなんて求めてないし、特撮好きの友達が聞いたら、『見返りを求めるのは英雄ではない!』といいそうだし。」
後、この子帰国子女だったんだ。
「見返りというものがないのが異常なんですよ。お人よしにもほどがあります。貰ったものは返すのが礼儀であるはずです。」
「じゃあ、あなたは良い子とされたら必ずお返しをするの?」
「はい、必ず100円以上は払います。お金持ちなので。」
「じゃあお金がない人にも見返りを求めるの?」
「お金がない人は、髪の毛や爪、着ていた服など、貰えるものは貰います。」
(だめだこりゃ・・・。)
何が何でも、恩は必ず返すものと言い張る高井には私の質問は通用しなかった。しかし、私は気になったことに質問した。
「髪の毛や爪って何に使うの?」
「自由研究のサンプルに使います。」
(何の自由研究をするつもりなのー!?)
私はある意味の怖さを抱き、これ以上は質問をしなかった。
「それに、何も返さないどころか仇で返す人もいますから。」
そして、最後の正論にとどめを刺された。
立場上としては私は止めたかった。アイアスの攻撃から助けたかった。しかし、彼女の言ってることも正しかった。年下の子を無理やり武力で止めるのも大人げない。
「今はここで失礼いたします。また、恩返しに来ますので。」
高井ちゃんは、テーブルに注文した合計金額と駅ビルで使える商品券1000円分(封筒付き)を置いて店を去った。
それから、また疑問に思ってしまった。髪の毛や爪で何の自由研究をするの!?
午後正午 モストホープ社
元社長「お札は90人に貼る。金額は7500円か。だいぶといい調子だな。」
アウルート「財布の謝礼金で1000円手に入れるという当たりが3回もありましたしね。」
無垢・元光の神「さらに、ハリセン女を説き伏せるとは・・・。善の心が強い。」
独善・滅私奉公「しかし、やっぱり見返りがあるのは同じ善を求めるものとしても嫌だな。やっぱり人知れずに救う方が良いな。」
(だからお前が言うな!)
アウルートと黒幕はまた心の中で叫んだ。