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~身勝手にもほどがある!4~

 誰かの話し声がする。


 必死に聞き取ろうと頑張ってみたが、聞こえてくる会話をすべて理解することは難しかった。ここはどこだ? 結人は重いまぶたをゆっくりと開けた。狭い石造りの一室。そこには結人が横になっている簡素なベッドがひとつと、少し離れたところに木で出来た小さな丸机があり、その上に置いてある小さくてお洒落な花瓶には黄色い花が生けられている。


 部屋を見渡す感じ、この部屋を出入りできるのは結人の足下のほうに見える木の扉だけのようだ。四角いガラス窓から差し込んでくる光が眩しく、思わず左手を上げて光を遮る。そこで自分の意思で身体が動かせるようになっているということに気がつき、ひとつ息を吐く。足の感覚も戻っているようだった。


 安堵と自分の意志で動くことが幸せなことだという実感がこみ上げてきて、涙が一筋頬に伝う。そこで結人は、はっとして魔物の腕と化していた右腕を恐る恐る持ち上げて確認してみる。服は肩の辺りから破けてしまっていたがそこには人間の、いつもの見慣れた自分の手があった。思わず手を握ったり開いたりしてみる。まだ少し痺れている感じはあるものの、問題なく動いた。


「よかった。ほんとに、よかった」


 涙がとめどなく溢れてくるのを、誰にも見られまいと右腕で目を隠すように持っていき、堪えた。するとタイミングよく「コンッコンッ」と扉をノックする音が聞こえ、扉がガチャリと開く音がしたので、慌てて涙をぬぐう。

 

 入ってきたのは背中まで届きそうな薄紫(ラベンダー)色の髪に、少しあどけなさが残るとても可愛らしい顔をした女性だった。アニメや漫画などでよく見る神官が着ているような祭服を着ている。コスプレ? どんなコスプレでも美少女が着ると似合うよな。などと不埒な考えが頭をよぎる。


 彼女の手には花瓶に生けられているのと同じ花を持っているのが見えた。この人には見覚えがあった。確か、結人が倒れる直前にあの白銀色の髪をした女性と一緒に竜に跨っていた人だ。

 結人が必死に記憶の糸を手繰り寄せていると、その女性は花瓶のところへ歩いていき、しおれかけている花と手に持っている花を交換する。そして振り返った時に結人と目が合った。目が合った瞬間、少女は手に持っている花をぽとりと床に落とし、小走りに近づいてきたかと思うと、寝ている結人に思いっきり抱きついた。

 

 今までの人生、女性に縁のなかった結人にとって女性に抱きつかれただけでもあたふたする自信があったが、それがこんな可愛らしい女性ともなれば、抱きつかれた衝撃に頭が真っ白になり、パニックに陥るのも当然だった。はっ? えーーーっ!! 何ですか?この誰もが羨む状況は!? こんな美少女が俺に抱きついている。しかもフローラルな良い香りまでさせながら! 状況が全くと言っていいほど分からないが、こういう場合、男なら優しく背中に手でも回すべきなのだろうか・・・? 結人が意を決し、少女の背中へ腕を回そうとした矢先、少女は上体を起こし、結人から離れる。結人は空中で行き場の失った手を、元の位置にしぶしぶ戻した。少女は少し恥ずかしそうにしながら微笑み、髪と同じ色の瞳に滲む涙をぬぐう。


「少し取り乱してしまいました。意識が戻られたみたいでよかったです。()()()

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― 新着の感想 ―
[良い点] 結人君がまず羨ましいですね。抱きつかれるだなんて本当に。ずっとお見舞いや看病してもらっていたのでしょうか。そういう書かれていないところまで想像できる良い場面描写で楽しく読ませて頂きました。…
[良い点] 結人の身体の感覚を確かめる描写が良かったです。 [一言] 相変わらず『ヒキ』を作るのが上手ですね!これからの結人の運命やいかに…!
2021/09/20 12:54 退会済み
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