~身勝手にもほどがある!3~
結人は薄れ行く意識を一生懸命に繋ぎ止めようと必死だった。何がどうなった? そうだ、あの宝石みたいな石が光ったんだ。
そして、この手の中に入ってきた。そこから頭に直接響いてくるような低く太い声が聞こえてきたのだ。
「ここから出たいか。ならばその身体を我にに預けよ」
と。当然出たいという思いはあった。だが、明らかに嫌な予感しかしなかったから必死に抗ったのだ。
しかしその声は「脆弱な人間の分際で生意気な」と激怒して・・・。激怒して・・・どうなった? そこからの記憶が曖昧だった。ただただ、苦しく、体の内側を炎で焼かれているかのように、熱くて痛くて、体の自由が利かなくなったのだ。
そして気がついたら、内側から切り裂いた肉の塊を、人の気配がする方へ鷲掴みにして、片手で放り投げていた。
今なお、頭の中に響く声は結人の身体を乗っ取り、外に出ようとしているのがはっきりとわかる。こいつを外に出してはいけないという思いとは裏腹に、身体はいうことをきいてはくれず、足が勝手に歩き出す。そして、ついに日の射す暖かな場所に出た。
本来であれば、洞窟から抜け出せたのだから大喜びしていたことだろう。子どものようにそこらをはしゃぎ回っていたかもしれない。
だがしかし、結人に日の光を、外の空気を堪能する余裕はなく、今までに感じた事のない苦痛に抗っていると、またあの声が聞こえる。
「ふはははは、いいぞ人間。ここまで人間の分際で我に抗うとは。いつまで我に抗うことが出来るか見ものだな」
何を勝手なことを、と朦朧とする意識の中で必死に言い返した。
そんな時、視界の上のほうに黒いドラゴンと思われるものに跨る二人の女性の姿が映る。だめだ。この声の主はさっきの魔物と同様に、あの人達でさえ肉の塊としか見ていない。ここから何とかして離れないと彼らを殺してしまう。
そう直感が叫んでいた。しかし、見上げた顔は結人の意思とは関係なく、<にやり>と相手を見下すような笑みを浮かべる。
頼む。頼むから。俺の身体、いうことを聞いてくれ! これ以上こいつを好き勝手させるわけにはいかないんだ!
結人は自分の意思で身体を動かそうと必死に試みる。ただでさえ身体の内側を焼かれているような激痛が走る中、思い通りにならない身体を力技で動かそうとしているのだから、ちぎれてばらばらになるのではないかと思うほどの激痛が全身を襲う。
それでも、それでもこれ以上好き勝手させちゃだめなんだ! 結人の身体を奪った声の主もここまでの抵抗をされるとは予想していなかったらしく思わず片ひざを地面につく。
「こやつ、こしゃくな」
そんな言葉が頭の中で響いた気がしたが、当然構っている余裕はない。だが動きを抑えるのに必死でこれ以上手の施しようがない。いったいどうしたらいいのかと思案しているところへ突然、遥か上空で可愛らしい声が凛と響き渡った。
「カデナ!」
結人の意志とは関係なしに上空の彼女達を振り仰ぐ。
はっとした時には既に地面にいくつも出現した魔法陣から魔法で織り成された鎖が飛び出し、結人の身体へ巻きつく。
それはリアが放った聖魔法だった。聖光教会において、神官は命あるものを殺してはいけないという掟があるため、攻撃魔法などは使用してはいけない決まりとなっている。その代わり、自分の身や仲間の身を守るための魔法を幼少時に身に付ける。
リアが放ったその鎖は悪しき魔物を拘束し、拘束した者の魔力を吸い上げてしまうための魔法だ。
結人は鎖が巻きついた瞬間、鎖に何かが吸い取られていくのを自覚した。次第に身体の自由が戻り、蝕んでいた焼け付くような痛みも消え失せたことを悟ったが、流石に体力の限界だった。
結人は、自分の意思で空を見上げながら、「ありがとう」と言ったつもりだったのだが、口をパクパクさせただけで声は口をついて出ることはなく、その場にばたりと力尽きたのだった。





