Act.2~身勝手にもほどがある!1~
Act.2 ~身勝手にもほどがある!~
一方、イビロス大陸の中央に位置する王都ゲネシスでは、大変な騒ぎとなっていた。王都で手厚くお迎えすることになっていた勇者様が、この大陸の違う場所に召喚されてしまったというのだ。
勇者捜索隊を結成するべく、王城の中庭を慌ただしく駆け回る騎士達にテキパキと指示を出している彼女は、ロードティスエリーム。
長く伸ばした白銀色の髪を後ろでひとつにまとめ、その髪を引き立たせてくれるような切れ長のライトブルーの瞳に整った顔立ち。すらっとした誰もが憧れるような体躯には、ある特殊な魔物から取れる糸を紡いで出来た紺色の服を身にまとっている。
その糸は鉄の鎧に匹敵する防御力があり、そこらにある武器では刃が通らないため、それ以上の鎧の類は身に付けていない。腰にはいつも細身の魔法剣をさげている。親しき間柄の者は、そんな彼女のことをティスと呼ぶ。
彼女の傍らにはいつも決まって竜の近縁種にあたるワイバーンドラゴンのノエルがいて、今この時も愛おしそうに彼女を見つめている。このワイバーンは黒竜種と言い、ワイバーンの中でも少し特殊な存在で全身真っ黒な体をしている。普段は人に懐く種族ではないのだが、とある出来事をきっかけに彼女にだけは心を許しているのだ。
一般的に言われるワイバーンとは、二本足で立つ小型のドラゴンで、普通種はみな青みがかったグレーをしているのが一般的だ。兵士たちの慌ただしさが次第に落ち着き、彼女の前に整列する十人ほどの騎士が一斉に右手を胸に当て、ティスに敬礼する。そんな各騎士の傍らにも、それぞれ普通種のワイバーンが控えている。ティスを筆頭に、彼らはこの国が誇る聖竜騎士の一員なのである。百人以上の聖竜騎士がいるのだが、さすがに王都の守りを疎かにするわけにはいかない為、今回は十人ほどの規模での捜索だ。そんな彼らに向かいティスは声を張り上げる。
「お前達、準備は出来たか!これより勇者様捜索に向かう。この大陸のどこかにいることは間違いない!無事に勇者様を保護し、ここゲネシスへ帰還するのだ」
今でこそかなり落ち着きを取り戻したが、先ほどまでティスは内心、かなりイライラしていた。国の重鎮達ときたら何かある度に会議だ、予算が無いだ、などと言い訳をしてすぐに動こうとしない。勇者様の命が危ないかもしれないという今でもだ。
そんな彼らの行動に痺れを切らした彼女が、国王に直接交渉しに行っていなければ、未だに重鎮達による会議はなされていたことだろう。
ティスの少し後ろに大人しく控えている彼女は、シネラーリアである。この国の最高司祭であり、聖女様だけが着ることを許された祭服に身を包み、肩の辺りまで伸ばした薄紫色の髪に、まだあどけなさが残るものの、誰が見ても可愛らしいと言うであろう面持ちをした彼女は、ティスの隣まで進み出て、どこまでも澄み渡るかのような声で、しかし非常に申し訳なさそうにしながら兵士たちに深々と頭を下げる。
「あの、皆さんもご存知かもしれませんが、聖光教会の最高司祭を務めさせていただいているシネラーリアです。この度、勇者様召喚の儀に失敗してしまい、大変ご迷惑をおかけいたしましたこと、心よりお詫び申し上げます。どうか、どうか必ず勇者様を見つけ出し、無事に帰還いたしましょう」
聖光教会の最高司祭は、シネラーリアの家系から代々選ばれる決まりとなっている。その中でも魔力がいちばん強い者が最高司祭の座を受け継ぐ事ができるのだ。そんな彼女が、こんな単純な失敗などするはずがないのだが、はっきりとした原因がわかっていない以上、こう言わざるを得ない。
「ここにいる聖女様は、勇者様の居所を感じ取ることができるため今回の捜索に参加してもらう。したがって何が起ころうとも聖女様と勇者様のお命だけはお守りしろ」
ティスの号令に皆一斉に最敬礼をする。この国にとって最高司祭とは、国王陛下とは別に強大な権力を有しているため国の柱となっている存在だ。それでも国が傾かないのは、遥か昔に王家の一族と最高司祭の一族との間で、とある契約がなされたからだと言われている。よって、このようなことで最高司祭である彼女を死なせるわけにはいかないのだ。
ティスは、愛竜であるノエルに跨り、自分の後ろへ、シネラーリアの手を引いて乗せ、シネラーリアにだけ聞こえる声でささやく。
「リア、私にしっかり掴まっていて」
ティスはシネラーリアの二つ年上で、幼い頃から姉妹も同然で育ってきたため、ティスは彼女のことをリアと呼んでいる。しかし、身分と言うものがあるため、公の場で会話するときは立場を弁えるよう心がけているのだ。
「皆、私に続け!」
掛け声とともにティスが手綱を引くと、ノエルは羽ばたき、空へ飛翔する。単なる勘でしかないのだが、早く勇者様を探し出さねば取り返しのつかないことになるという警鐘が、ずっとティスの頭の中で鳴り響いている。それをどうにか無視して、後に続く部下達に、この焦燥感を悟られまいと必死に平静を取り繕ったのだった。





