~涙するにもほどがある!12~
期待にそまった眩しすぎる笑顔でさらりとそんなことを言われても、現状あの魔物の中にあったオルクスの結晶が原因でリガーレの力が暴走した過去がある結人はどうするか逡巡してしまった。
そんな結人に気を使ってくれたのか、黄緑色の髪をした背の低い女の子が近づいてきて片膝をつき力の結晶が入った箱を掲げるように持ち上げる。
「結人様。お手をかざすだけで大丈夫です。それでここにいる者もみな納得するはずですので」
ここまで来たからには仕方がないのかもしれないが、正直嫌だという気持ちが強い。だが、周りの魔族たちの眼を見るに誰もが見たがっていることは明らかだ。それにここで結人が断りでもすれば、ラプソディアのメンツが丸つぶれだろう。
ここはひとつ事を穏便に運ぶためには、手をかざすという選択しか残されていない。結人は意を決し琥珀色の結晶に恐る恐る手をかざす。始め反応しないのかと思ったが、その結晶は徐々に光を放ち始め眩いほど輝きを放った。
それを目の当たりにした魔族たちは皆「おお」だの「リガーレ様」だのと好き勝手話し始めたのでラプソディアが再び手を打って静かになる。
「これで、結人様が魔王の器だということが皆様ご覧いただけたかと思います。これ以上あらぬ疑いや異論を唱える方は後で私の部屋まで来てください」
いや、ラプソディアさらりと怖いこと言ってるな。けど何も起こらなくてよかった。もう手を戻しても大丈夫だろうと手を引っ込めようとした瞬間、「くしゅん」と可愛らしい、いかにも女の子ですというような感じのくしゃみを目の前の黄緑色の髪をしたメイド姿の魔族の女の子がした。
魔族でもくしゃみとかするんだと妙なところで感心しながら、ひっこめている指先に何か光り輝いているものがくっついてきているような気がしてそちらへ視線を落とすと、さっきまで箱に綺麗に収まっていたはずのリガーレの力を封じたオルクスの結晶が今はしっかりと指先から結人の中に入り込もうとしている。
「なんで!?」
さっきこの子がくしゃみをするまでは何とも……そうか! あの少女が持っていた箱がくしゃみの反動で浮き上がったのか。そこまで考えて少女を見ると口に手を当てて、「あわわわ」と焦っている少女の姿があった。
触れたのはほんの一瞬のことだったはずなのに、触れた部分に吸い付くように離れなくなった結晶はどんどんと結人の中に入っていく。くしゃみをした女の子はとてつもなく青ざめてしまっていて今にも倒れそうだ。ティスが真っ先に駆け寄ってきてくれる。「グッドルッキングガイ」で有名な彼の御仁に匹敵するようなかっこよさを持つラプソディアでさえ驚きを隠せないでいた。
「結人様、これは、いったい!? リガーレ様のお力が結人様とひとつになろうとしているのか?」
「結人殿!」
ティスはかなりうろたえて、力任せに引っ張ったりしてくれている。不思議と引っ張られる感じはあっても痛みはなかった。というか、こうなってしまっては何をしても抜けないのだろうという確信が結人にはあった。
「多分だけど、何をしてもこうなった以上抜けないと思う。ティス、ラプソディア、俺をできる限り押さえつけておいて!ここにいる誰も殺したくはないから」
集まっていた魔族たちが「何か面白いことになった」と前へ前へと押し寄せる。その光景にラプソディアは苦渋の顔をしていたがとりあえず結人のことに専念するように決めたようだ。オプスが最前列にきて妖艶な笑みを浮かべているのがちらりと見えた。
「もしもその力に飲まれることなく無事に帰ってこられたのなら、ご褒美にお姉さんが気持ちよくしてあげるわ」
結人の耳にははっきりとその声が聞こえていたがあえてスルーすることにし、今にも泣きだしてしまいそうな黄緑の髪の少女へ目線を合わせて話しかける。
「君、名前は?」
「ラビアって言います。あの、すいませんでした。どんな罰でも受ける覚悟なので、どうか許してください」
ラビアと名乗った少女は頭を下げながら泣き出してしまった。魔族と言ってもちゃんと責任を感じ取れたり、泣いたりすることが出来る、なんら人族と変わらないいたいけな少女の姿がそこにはあった。
「大丈夫だよ。きっと戻ってくるから、その時はいっぱいお話ししよう」
ラビアは涙をぬぐいながら嬉しそうな笑顔で頷く。指先の結晶はもう八割がた吸い込まれていた。
「それじゃ、あとのことは頼むね」
「結人殿、私は信じて待っているから必ずまた結人として戻ってきてくれ! 一緒にリアを助けに行こう」
ティスは何とも言えない顔で結人の顔をじっと見つめている。そんな顔をさせてごめんと心の中でそっと謝る。
「結人様、結人様ならこの結晶にも飲み込まれないことを信じています。必ずお戻りください」
「二人ともありがとう。俺が暴走した時は悪いけど止めてほしい」
結人の記憶にあるのはそこまでだった。指先の結晶は完全に姿をなくし、すさまじいオルクスの奔流が結人の身体を包み込み、ここにいる誰もを圧倒させる。
「くっ! まさかリガーレ様のお力ひとつでここまでの力だとは! このラプソディア、全力であなた様の『誰も傷つけたくない』という思い守り抜いて見せます」
ティスはオルクスの激しい暴走に吹き飛ばされないように必死に結人の手を握りしめながら「必ず戻ってきてくれ」と祈るばかりだった。
ラプソディア「ハクション」
ラビア 「クチュン」
結人 がくがくがくがくブルブルブルブル
ティス 「これは、完全にトラウマになってるな」
いつもお読みいただきありがとうございます。
まさかのくしゃみから起こる悲劇。結人は不運体質なのでしょうかね(笑)
はてさて、話は変わるのですが私アレルギーもちでして、この時期になると目がかゆい、喉がかゆいと毎日泣いております。不思議と鼻には来ないんですけれどね。アレルギーとは器に水を満たしていくようなものだと言いますが、一昔前と今と比べてみると確かに症状が悪化している気が……
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